投資と投機、資産運用と資産防衛
先週5月23日の日本株の急落、その後の乱高下で、日本株に対する投資姿勢をあらためて考えさせられている投資家は多いでしょう。それまで一本調子での上昇相場だったため、下落に対するリスク感覚が麻痺してしまったところに、今回の急落があったわけですから。日本株の急落と同時に、ドル円も急速に円高進行となりました。日本株同様、ドル円に対する投資姿勢も考えさせられているかもしれません。
今回のコメントは、相場観をご説明するのではなく、投資姿勢の見直しにお役に立つよう、標題の切り口で投資活動を考えてみたいと思います。
まず、投資と投機の違いです。「リスクをコントロールしながら、じっくり行うのが投資」「一気にリスクを取って、短期間でリターンを出すのが投機」と何となく考えている方は多いと思います。ただ、それだと違いが明確ではありません。はっきりと定義すれば「投資とは、現時点を起点にして、様々な事象の変化を根拠に基づき合理的に予想し、その結果導き出される目標価格に向かって、ある程度(通常3-6カ月間)以上の期間でその達成を狙う行為」になると思います。「変化を根拠に基づき合理的に予想し、その結果導き出される目標価格」というところがポイントです。一方で「投機とは、合理的予想をすることなく、値動きによってリターンを上げることを目指す行為」となるでしょう。順張りでも逆張りでも同様です。投資期間が例え短期間でなくても、チャート分析による売買であれば、投機だということです。
誤解しないでいただきたいのは、「投機はよくない」と言いたいのではありません。むしろ市場を投機の道具として使うのは、結構なことだと思います。流動性の提供につながり、市場全体の活性化につながるからです。重要なことは、自分の売買が投資なのか投機なのかをはっきり認識すること、です。自分が思っていた方向と逆に行った時の、修正に仕方が全く異なるからです。
投資の場合は、目指すところは「変化を根拠に基づき合理的に予想し、その結果導き出される目標価格」ですから、自分が思っている方向に行っている時(含み益の時)も行っていない時(含み損)も、「根拠に基づき行った合理的な予想」および「予想の結果導き出された目標値」の2点が修正されるべき、以前は想定していなかった変化があったのかどうか、を検証し続けなければなりません。もし検証の結果、修正の必要がない場合、自分が思っていない方向に市場が動いたのであれば、絶好の買い場となります。もし修正が必要な場合には、修正して新たな目標値を導き出し、その結果リスクとリターンが見合わなくなるのであれば、ポジション解消です。
投機の場合は、合理的な予想をしていないので、検証をすることはできません。投機の場合の、自分が思っていた方向と逆に行った場合の修正は、最初からロスカット・ラインを決めておき、それを必ず実行する、ということです。ロスカットを決めておかない投機はあり得ません。ロスカット・ラインは、最大でも狙うリターンと同じ値幅で、望ましくはその半分です。例えば、100円のリターンを狙うポジションであれば、ロスカット・ラインは最大限でも100円やられ、望ましくは50円やられ、ということです。後で躊躇しないためにも、ポジションを取った時に同時にロスカットの逆指値を入れるべきです。
次に、資産運用と資産防衛です。株や債券や商品は、業者でない一般投資家にとってみれば、ポジションを取ることによって資産が防衛されるということではないので、それらはすべて資産運用です。しかし通貨の場合は違います。日本で暮らす日本人であれば、資産が全額円である、という人は多いでしょう。しかしそれは、通貨は円に集中投資していることに他なりません。円高進行が続いていた時期は、円に集中投資しているという意識はなかったにせよ、結果オーライだったわけです。しかし、円安進行の可能性が出てきた今は、話が全く違ってきます。
米ドル以外の通貨を考えると話が複雑になりますので、円と米ドルだけで考えます。通貨の中立ポジション、つまり円高進行か円安進行か全く予想できないので、どちらの方向にもリスクを取っていない状態は、どのような状態でしょうか。全額円ではありません。その場合、円安進行したらドルベースの購買力はどんどん失われていきます。正解は半分を円、半分をドルです。それが通貨の中立(ニュートラル=リスクを取っていない状態)ポジションなのです。自分の資産(金融資産だけでなく、不動産なども含む資産すべて)の半分までドルにすることは、資産運用ではなく資産防衛なのです。自分は強い自信を持って再び大幅な円高になると思っている、というのであれば、相当なリスクを取っている意識とともに全額円でもいいでしょう。ただ、そのような感覚で資産を全額円にしている人は、一人もいないでしょう。
円安進行しそうだから円安にベット(リスク)を取りたいということであれば、半分より上の部分がドルでの資産運用部分ということになります。日本で暮らしている以上、全額ドルには出来ないので、例えば円20%ドル80%とした場合、ドル50%の部分は資産防衛、ドル30%の部分は資産運用ということです。どのくらい積極的に資産運用するかは人それぞれで構いませんが、資産防衛の意識は全員に共通に必要です。ちょうどドル円は調整局面です。この機に資産防衛を考えてはいかがでしょうか。
その手法ですが、F/X(為替証拠金取引)が便利です。円安進行の究極のリスクとして、国内金融口座封鎖とかハイパーインフレとか主張している人がいます。ハイパーインフレ(ハイパーというからには年率30-50%以上のインフレ)の可能性はないと思いますが(そこに至る前に手が打たれると思うので)、国内金融口座の一時的な封鎖の可能性は否定できません。それならば海外でドルを持たなければ、口座封鎖リスクを排除できない、ということになるわけですが、それを実行するのは多くの人にとって相当なハードルでしょう。考えていただきたいのは、時空を超えるワープ航法やドラえもんのどこでもドアのように、ある日突然最悪の状況が来る、ということはありません。円安進行が、70円台から100円越えまで連続してきたように、円安進行が続くとしても今後120円・・・150円・・・200円と連続して進行します。
どこまで円安が進行した場合、国内預金封鎖などの話が出てくる可能性があるか、を考える必要があるわけですが、リーマンショック前の120円まではその可能性は全くないでしょう。1998年の円の安値水準である150円までも、その可能性は全くないと言えるでしょう。それ以上になると、可能性を全く否定はできなくなりますが、その時のこと(ドル円が150円を大きく超え、国内口座封鎖リスクがゼロではなくなること)を今から心配するよりも、今は便利な方法で自分の資産の半分のドル・ロング・ポジションを持つことで資産防衛することの方が、はるかに重要です。
F/X口座は、口座開設が非常に簡単であることに加えて、レバレッジが使えます。例えば、自分の資産全体が100とした場合、現金や現物資産の半分をドルにするのは容易ではないでしょう。しかしF/X口座を使えば簡単です。5を証拠金にして10倍のレバレッジで50のドル・ロング・ポジションを取ればいいのです。行動することのハードルを自ら高くして、それを理由に行動を取らないことは全く合理的ではありません。ぜひ御一考ください。