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2011年10月3日のマーケット・コメント

ヘッジファンド解約に伴う資金の流れ

 

8月以降の市場動向を受けて、ヘッジファンドにもかなり解約が入ってきているようです。解約となれば、ファンドのマネージャーはみ合いのポジションを削減しなければならないわけですが、「45日前ルールに伴うヘッジファンドからの解約売り」などという記事を見ると、どうも正しく理解されていないようなので、ここで説明します。

 

ヘッジファンドには解約日があり、解約日を決めるための事前通知があります。解約日は株式ロング・ショート・ファンドの場合、多くは毎月月末ですが、中には毎四半期末というファンドもあります。事前通知は多くの場合30日前か45日前、中には60日前というものもあります。そして、解約資金は多くの場合解約日から1カ月以内に、投資家の口座に現金で返還されます。

事前通知の意味は、ポジションを解消する時間的余裕をマネージャーに与える、という事なので、事前通知を受けて即座に見合いのポジションを解消するマネージャーはいません。もしそれをしたら自分が持っているポジションにネガティブ・マーケット・インパクトを生じさせ、ファンドのパフォーマンスにダメージを与えてしまうからです。事前通知の存在意味からしても、そんなことをする必要はありません。したがって、「45日前ルールに伴うヘッジファンドからの解約売り」などという説明は正しくありません。

 

では実際には解約通知を受けたら、マネージャーはどうするかをご説明します。まず、解約に対応するためにマネージャーは最終的に何をしなければならないかですが、例えば100の資金を預かって、90がロング、70がショートになっていたとします。そこに25の解約が入ったとすると、預かり資産が100から25減って75になるので、マネージャーはロング、ショートともに25/100分削減し、ロングが67.5、ショートが52.5として75の預かり資産をベースにして、ロング、ショートともに同じ組み入れ比率(エクスポージャー)を保ちます。この場合ロング90%、ショート70%ということです。

 

ヘッジファンドのパフォーマンスは月次で計算しますので、解約日よりも早い段階で上記のことをやった場合、預かり資産がまだ100なのに、エクスポージャーをロング67.5%ショート52.5%にしてしまうことになり、マネージャーの取りたいエクスポージャーに満たず、パフォーマンスもその分小さくなってしまいます。また、通常毎月末時点での状況をファンドの投資家にレポートしますが、ここでも本当は取りたいエクスポージャーはロング90%ショート70%にもかかわらず、月末時点でのエクスポージャーはロング67.5%ショート52.5%と報告されてしまいます。

 

そのような理由で、通常は(株式ロング・ショート・ファンドの場合を想定しています。流動性の低いものに投資するファンドの場合は、行動は異なります。)解約日まで流動性が低い銘柄以外はなにもせず、解約日が過ぎてからポジションの削減をします。投資家に解約分の現金を返すのは、前述のように解約日から1カ月以内という時間的余裕があるので、問題は起きないのです。

 

今年の場合を考えてみますと、市場が明らかにおかしくなったのは8月からでした。したがって、どんなに判断の早かった投資家も8月半ば頃になってから解約の通知をしたと思います。45日前通知であれば、おそらくほとんど9月末には間に合わず、10月末が解約日になり、30日前通知であれば8月中に通知していれば9月末が解約日となったはずです。9月末解約分のポジション解消は、まさに10月初めに行われていることになります。10月末解約の分は11月初めにポジション解消が行われます。

 

今週、そして11月初めには、ヘッジファンドの解約に伴うポジション解消に要注意です。ロングが多い銘柄は株価に下方圧力が、ショートが多い銘柄は株価に情報圧力がかかります。例えばここにきて株価が急落し、安値更新している大手商社株などは、ロングが多い銘柄だったのではないかと推察されます。