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2011年12月29日のマーケット・コメント

日本株出遅れの理由と復活への条件

 

今回のレポートは雑感のようなものです。リーマンショック以降、明らかに日本株は欧米株に比べて上昇する時たいして上がらず、下落する時は同じかそれ以上に下がって来ています。日本株を扱うものとしてはどうしても「日本贔屓」になりがちなので、できるだけ客観的に考えてみました。

 

まずは下の表を見てください。主要国株価指数のPER、PBR、ROE、配当利回り、リーマンショック後の安値から現在何%上の水準か、です。

 

  PER PBR ROE 配当利回り 2009年安値比
TOPIX 15.01 0.87 5.8% 2.6% 2.7%
S&P500 12.64 2.03 16.1% 2.1% 87.5%
FT 9.87 1.59 16.1% 3.9% 59.1%
DAX 9.66 1.19 12.3% 4.2% 60.8%

 

 

ご覧いただけますように、日本株(TOPIX)はリーマンショック後の安値にあとわずかに迫っている一方で、PER、ROE、配当利回りで見て、他の市場に対する割安感はありません。

 

これは今に始まったことではありません。私が運用の世界に入った1990年当時はTOPIXのPERはS&P500の3倍位の水準でした。(はっきり覚えていませんが、S&P500が17倍、TOPIXが50倍くらいだったと思います。)

運用の世界に入ったばかりの私には、なぜそこまでの違いがあるのかまったくわからなかったので、当時日本株運用を長く経験していた先輩に訪ねました。すると「日本株の7割は持ち合いで持たれているので、その分は市場には出てこない。だからその分は発行株数から引いて考えなければならないんだ。それを調整すると日本株のPERは米国株と同じくらいになるんだ。」と言われました。すっきり納得はできませんでしたが、そういうように考えなければならないんだ、と思いました。

 

もっと年配の人は「日本は欧米よりも経済成長力が高いから、PERは欧米より高くて当然だ。」と言っていました。別の人は「日本は金利水準が欧米よりも低いので、益利回り(PERの逆数)や配当利回りは欧米よりも低くなっている。」と言っていました。

 

1.持ち合い

過去20年間で持ち合いは相当解消されました。そもそも持ち合いの分だろうが、金庫株(消却していない自社株)だろうが、常に売却される可能性はあるので、発行株数から差し引くなどという考え方はおかしいです。

 

2.経済成長力

2011年の現在では誰一人「日本の方が欧米よりも経済成長力が高い」などと考えてはいないでしょう。人口動態から見ても、日本はいち早く1990年代前半に生産年齢人口がピークアウトし、2005年-2010年にピークアウトした多くの欧州国や今まさにピークアウトしつつある米国に比べて不利な状況です。日本は海外からの移民受け入れも消極的で、工場の海外移転で国内雇用も減っており、国内需要はこのままだと趨勢的に欧米よりも早く減少が進みます。

 

3.金利水準

確かに金利差はPERや配当利回りの違いを正当化するものかもしれません。ただ、今となっては短期金利は日本も欧米もほぼゼロで差はなく、10年国債利回りも米国やドイツとの差は約1%にまで縮小しています。多少の違いは正当化されるかもしれませんが、長期金利水準は中期的な期待インフレ率の裏返しであることを考えると、経済成長力が劣ることを表しているともいえるので、微妙なところです。

 

PBRで見れば日本株は圧倒的に割安だ、という見方もあります。ただ、流動性の低い株だけでなく大型株でも、損益が黒字でバランスシートに何の問題もないにもかかわらず、PBRが0.6倍程度の銘柄が多数あるという現実を考えると、市場参加者はもはやPBRという指標を見ていない、と考える方が自然だと思います。

なぜPBRという指標が見られなくなってしまったか、色々な要因が考えられますが、最大の理由は、過去にPBRが低いという理由で企業買収をし、企業を清算することによってリターンを挙げた事例がないことだと思います。ブルドックソースやアデランスなど過去何度かそれに近いことを試みた例はありましたが、ことごとく失敗に終わり、実際に収益化できないのであれば、日本株の低PBRはまさに「絵に描いた餅」という解釈になってしまったのではないか、ということです。

 

一口に日本株といっても、業種によっておかれている環境は様々であるため、今度は全業種の集合体であるTOPIXではなく、業種ごとに考えてみます。

 

1980年代のバブル相場の頃から現在までを考えてみると、株価が低位安定期(成熟企業の株価の動き。一定水準の黒字は維持できるが、利益成長期待がほとんどなく、株価の振れ幅も小さくなってしまっている状態)に入ってしまった業種が、徐々に増えてきていることがわかります。

一番最初は電力や百貨店、そして建設、少し前にはメガ・バンク、今まさにそうなりつつあるのが、ソニー、パナソニックなどの民生電機、そして新日鉄やJFEなどの高炉製鉄です。まず、内需の伸びが止まることで売り上げ増加、利益成長の可能性が無くなった業種がそうなり、現在では、今までは外需の伸びで利益成長してきたが、日本企業の持っている付加価値と成長世界(新興諸国)が求める付加価値に明らかなミスマッチが生じ、他国の企業に外需を奪われつつある業種がそうなっています。

 

もちろん、グリー(3632)のように、現在の株価がTOPIXや日経平均が前の高値を付けたときの株価よりもはるかに上の水準にある企業もあります。しかし、リーマンショックの時の株価よりも現状の株価が下回っており、それ以前の高値に戻るなど「夢のまた夢」である上述のような企業ないしは業種の時価総額の方が圧倒的に大きく、結果として全体の集合体であるTOPIXや日経平均は、世界的に株式市場が上昇、下落するたびに高値、安値を切り下げていく、ということに何ら不思議はないでしょう。

 

では日本株に明るい将来が来る可能性はもうないのでしょうか?やれることはあると思います。

上記のように、日本株は国際比較で、PERでは割安ではないが、PBRでは割安、結果としてROEは低い、という状況にあります。ひとことで言うと「資本過剰」です。これは1980年代のバブル時に多額の借り入れをし、90年代にその処理に追われた後遺症で、バランスシートに過剰な現金を保有していることの現れです。その過剰な保有現金で自社株買いを行い、金庫株として保有するのではなく、取得後すぐに消却すれば、PERは低下、ROEは上昇し、PBR1倍以下での取得であれば、PBRも低下し、一気に国際比較で割安になります。

 

ただ、何の政策の後押しなくこれまでと逆向きの財務戦略を、自主的に多くの企業が取ってくるとは思えません。「国内で保有現金を使えば得する」と思われるような税制の優遇措置など、政策の後押しが必要でしょう。また、日本経済復活のためには、国内での雇用創出が不可欠です。ですから、企業としての成熟度が高ければ自社株買い、成長余力のまだまだある企業に関しては、国内で設備投資し、雇用を創出してもらうように促すことができれば、日本株市場も日本経済も復活の可能性はあると思います。

 

来年は消費税増税論ばかりではなく、上記のような方向での政策議論が始まることを強く望んで、今年最後のコメントといたします。

皆さま、よいお年をお迎えください。