FOMC声明を受けて
皆様ご存じのように日本時間の26日早朝に、FOMC声明が発表されました。要旨は「インフレ率は2%を目標とする。2014年後半まで現状の低金利政策を維持する。米国景気に対してはいまだ慎重姿勢であり、追加緩和の可能性は否定しない。」というものでした。2%という水準としてのインフレターゲットを掲げる一方で、2014年後半までの低金利政策の保証という、もし期限内にインフレが2%に達したらどうするんだ、というある意味矛盾している内容です。
これを矛盾ないように解釈すると、FRBは「インフレが安定的に2%以上になってくれたら低金利政策をやめますが、2014年後半までにそうなる可能性は極めて低いでしょう」と考えている、ということになります。ここ数カ月、米国の経済指標がおおむね堅調だったにもかかわらず、追加緩和の可能性を否定してこなかったことも併せて考えると、FRBは米国景気に対していまだにかなり慎重な見方をしている、ということがいえるでしょう。
この背景は、今後欧州問題が米国を含む世界景気に与え得る悪影響や、今年後半以降の中国景気のハードランディング・リスクなど外部要因に加えて、米国で大規模な強制歳出削減が実施された場合の景気への押し下げ効果を懸念している、ということだと思います。FRBの予想が正しければ(おそらく正しいのだと思います)、米国景気は少なくとも今後2年半は力強いものにはならないわけですから、その間は売り上げの増加が企業業績成長につながり、それが株式市場の上昇を持続させる、という典型的な業績相場での株価上昇はおこらない、ということになります。言いかえれば、マクロ要因やセンチメントで株式市場が上げ下げする局面が続く、ということです。
ところで、中国は春節明けの来週から、景気拡大に向けてアクセルを踏んでくると言われています。2月中から徐々にその証拠が断片的に出てくると思われますが、本格的に確認されるのは3月に入ってから発表される中国の経済統計を見てからになると思います。その際には、中国景気拡大加速からの各国の恩恵期待に加え、今回のFOMCの声明は、いわゆる「セーフティ・ネット」が示された、という解釈になり、3月4月は株式市場は上昇しやすい環境となると思われます。私の予想通り株式市場が2月に軽い調整を入れるとすれば、3月4月はより上昇しやすくなると思います。その際は、中長期投資家が世界的に株式の配分の引き上げを行うわけですから、日本株でも「外人投資家が好む銘柄」が買われると思います。具体的には、大型海外景気敏感株で、ROEが高くPERが低く、証券会社のアナリストの評価が高い銘柄です。
しかし、米国景気懸念がどの時点で再燃するか次第で、今回のFOMCの声明は、FRBは米国景気の低迷が続くことを予想している、という悪材料に姿を変え、さらには中国が景気拡大にアクセルを踏んでいることも、将来のインフレ問題や景気のハードランディングにつながるリスクだ、ということになり、そこにヨーロッパ問題も全然根本的に解決されていない、ということが加わり、株式市場は大きな調整局面を迎えるでしょう。どの時点で米国景気懸念が再燃するか、ですが、最も早ければ季節調整係数(季節調整係数については2011年9月22日のコメントでご説明しました。その時の説明部分を下に貼りつけました。)が押し下げ要因に転ずる5月に発表される4月の統計からでしょう。5月以降も季節調整係数の押し下げ効果は続くので、4月が大丈夫だったからと言って安心はできません。
米国景気懸念再燃で、世界的に株式市場が下落、ということになれば、FRBは今回その可能性を示唆した「追加緩和策」を実施してくると思います。ただ、追加緩和には依然根強い反対意見もあり、また今年は米国大統領選の年であり、追加緩和が必要なのだという「大義名分」が立てられる状況にならないと実施は難しいと思われます。最もわかりやすい「大義名分」は米国株の下落であり、水準としてはNYダウが昨年の安値を割りそうで、何も手を打たなかったら10,000も割れる、という状況ではないでしょうか。QE3実施ということになれば2-3カ月は株式市場は戻ると思いますが、いずれ「もはや打つ手なし」ということになり、根本的な解決にはならないでしょう。
季節調整係数について;
米国の経済指標は過去5年間(現在は2006年-2010年)の季節変動の平均を取って、季節調整係数として指標を調整しています。リーマン・ショックのあった2008年までは、4月-8月に経済活動が盛り上がり、12月-3月に経済活動が落ち込む、というはっきりとした季節性がありました。5月-6月ごろに税金の還付があったとか、9月から新学年が始まる、という要因が背景にあったと思われます。しかし、2009年以降この季節性は変動が非常に小さなものになっています。つまり、5年間のうち3年間は現在よりも大幅な季節変動があり、それが現在の季節変動係数に反映されてしまっている、ということです。その効果は、4月-8月は必要以上に下方に季節調整し、12月-3月は逆に必要以上に情報に季節調整する、ということになります。9月からは8月まであった数値の必要以上の下方調整がなくなるのです。