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2012年2月2日のマーケット・コメント

構造不況に陥っていく日本の大手民生電機

 

今週多くの決算発表が出てきましたが、目を引くのは電機・精密銘柄の業績不振です。オムロン、富士電機、リコーなど、予想以上の下方修正で株価が大幅に下落していますが、何といっても象徴的な銘柄はシャープです。営業利益はゼロ、当期利益は2900億円の赤字に下方修正しました。

 

シャープだけでなく、ソニー、パナソニックも業績不振により既に株価は低迷を続けており、民生電機大手3社はどれも業績不振に陥ってしまった、ということです。問題は、この業績不振が、為替や景気など外部環境による循環要因なのか、それとも独自の問題による構造要因なのかですが、完全に構造要因だと思います。

 

70年代の高度成長期以来、日本の民生電機企業(自動車も同様ですが)は、「品質の高い製品を適正な価格で販売する」ということを追求してきました。ヨーロッパの製品など最高品質のものに品質はほぼ同等だが価格はかなり安く、韓国の製品などは価格は安いかもしれないが品質は圧倒的に劣る、という状況を作り出し、日本製品は先進国市場でマニアだけではなく、マスに受け入れられるプレミアム商品、という位置づけを獲得しました。

 

しかし、2004年-2005年頃から、上記の戦略が裏目に出始めました。先進国からの需要は伸びなくなり、代わりに新興国からの需要が大幅に伸びてきたことが背景にあります。新興国からの需要とは、例えば「いままでテレビを持っていなかった人、あるいは古い小さいブラウン管テレビしかもっていなかった人が、50インチの液晶テレビを買う」というものであり、彼らにとっては自分が買える安い価格であることが最重要で、普通に使えさえすれば十分で、画像や音質がすごくきれいだとか、省電力だとかいうことは全く重要ではないのです。

 

それまで、品質では日本製品にかなわないため、品質が劣ってもとにかく安いものを作るしかなく、そういった製品は新興国を主な販売先にするしかなかった企業が、俄然競争力を高め、日本企業が追求してきた「技術力によって高品質な製品を開発し、生産効率により同等品質のものよりは安く販売する」ということの付加価値は、需要増加の出所が新興国に変わったことにより一気に低下してしまったわけです。

 

日本企業も新興国での販売拡大に取り組んではいますが、「品質は悪くてもとにかく安く作り安く販売する」という、これまで追求してきた方向性と全く逆向きのことをしようとしても、新興国での販売チャンネル開拓に後れを取ったこともあり、当然なかなか結果は出ません。

 

今後予想されることは、不採算事業からの撤退や生産設備の整理統合など、いわゆるダウン・サイジングによって生き残りを図るしかないと思います。当然その過程で多額の費用が必要となり、1株当たり純資産の減少につながります。ダウン・サイジングが終わった後も、利益成長の可能性はほとんどなく現状維持できれば御の字という状態なわけですから、株式市場から評価されるとは思えません。(かつてのウォークマンやiPodのような、新たな市場を作り出せる全く新しい製品を開発できれば別ですが。)

 

それは、公共工事がもはや長期的減少に転じたころのゼネコンとイメージが重なります。株価は、水準訂正が終わり下げ止まって落ち着いてからは、極めて狭いレンジでの推移となっています。パナソニックが2月3日にどのような決算を発表してくるか注目ですが、日本の民生電機3社の株価はまだ水準訂正の道半ばにいるように思います。当面「買い対象」にはなり得ず、下げ止まってからは狭い値幅での値動きに鈍い銘柄になり、買いでも売りでもなかなかリターンが出しにくい銘柄となるでしょう。業界再編の観測で一時的に動くことはあるかもしれませんが、根本的な解決にはならないと思いますので、その場合は「カラ売り」を考えるべきでしょう。