「グレート・ローテーション」という虚言
最近、ストラテジストやマスコミのコメントで、グレート・ローテーションすなわち日本国内で債券から株式への資金シフトが起こっている、という指摘を目にします。確かに最近、長期国債は下落傾向で、株は上昇を続けており、一見もっともらしく映ります。しかし本当でしょうか?
まず、外人投資家は日本の債券などほとんど持っていないため、日本国内で債券から株への資金シフトを行う事が出来る投資家は、国内機関投資家という事になります。国内機関投資家のうち、銀行は運用期間やリスクアセット規制から考えて、債券から株式への資金シフトを行う事は考えられません。したがってそのような資金シフトを行う事が出来るのは、生保と年金です。
国債の投資主体別保有状況は、日銀の資金循環統計で四半期ごとにしか把握できません。しかし株式は、東証が主体別売買動向を毎週木曜日に週次ベースで発表していますので、もし本当に債券から株式への資金シフトが起きているのであれば、その統計に現れるはずです。その主体別売買動向を見ると、生損保の株式売買動向はアベノミクス相場が始まって以来、直近(5月第2週)に至るまで一貫して数百億円の売り越しが続いています。では年金はどうでしょうか。年金の売買動向は、信託銀行の売買動向として現れます。信託銀行の売買動向は、昨年12月第2週から今年4月第4週まで、数百億円から二千数百億円の売り越しでした。5月第1週はわずかな買い越しになりましたが、5月第2週は百数十億円の売り越しでした。参考までに、銀行の売買動向も数十億円から数百億円の売り越しが続いています。つまり、国内機関投資家が日本株を買っている痕跡は、全く見られません。
結論としては、グレート・ローテーションが起きている、というのは虚言であり、無理やり日本株を買い煽っているにすぎない、ということになります。無理やりな買い煽りは、上昇相場の末期症状である一つの証拠です。
そうすると、債券と株式は別々の事情で動いている、と考えざるを得ません。最近の長期国債の下落は、おそらく銀行などのバリュー・アット・リスク(VAR)によるリスク管理が原因だと考えられます。VARとは、直近のボラティリティ(=1標準偏差)に基づき、2標準偏差(95%の確率をカバー)動いたらいくらの損失、3標準偏差(99%の確率をカバー)動いたらいくらの損失という計算をし、最大限いくらまでの損失に抑えるという基準を決めて、ポジションのリスク管理をするやり方です。
長期国債のボラティリティは、4月の黒田緩和発表以降、それまでの2.5倍から3倍に上昇しています。これによりVARによる見込み損失額が急上昇し、リスク管理上の要請から国債の保有残高を減らすか、長期債から短期債へ入れ替えするか、どちらかを行っていると思われます。国債の保有残高を大きく減らしているとは考えにくいので、おそらく長期債から短期債への入れ替えをしているのでしょう。その動きによって、ボラティリティが高い状態が続いてしまい、更なるリスク削減を迫られる皮肉な構図になります。
日本株は、上昇をけん引している銘柄をみると、東京電力やルネサス・エレクトロニクスなど明らかな投機対象銘柄と、ワケあり出遅れ銘柄です。上昇相場の末期にあることは間違いありません。ただし、行き過ぎがどこまでいくか予想することは困難な状況になってきたことも事実です。日本株全体も高値圏での急落、すなわち明確な上昇相場の終了サインが出るまでは、売りも買いも積極的に参加しないのが無難でしょう。
当初は、5月は一旦調整、成長戦略発表を受けて参議院選挙まで上昇、と考えていましたが、今では一気に高値まで上昇し、しばらく高値でもみ合った後に下落、と考えています。6月の成長戦略発表で高値を付け、参議院選挙まではもみ合い、その後徐々に下落、というイメージです。しかし繰り返しになりますが、本腰を入れてのカラ売りは高値圏での急落を待ってからにすべきでしょう。