日本株急落-高値圏での急落と安値圏での急落の意味の違い
昨日のコメントは後場寄り間もないころに書きました。結局日本株はさらに急落し、日経平均は歴代10位の1日での下落率を記録しました。手元に歴代14位までの記録しかありませんが、ざっとご紹介すると、1位はブラックマンデーの時、2位、5位、6位、7位、13位、14位はすべてリーマンショックの時、3位は東日本大震災の時の福島原発放射能漏れの時、4位は1953年スターリンショックの時、8位、9位はそれぞれ1970年、1971年で、ニクソンショックなどの時、11位がネットバブル崩壊の始まりの時、13位が1949年です。
以上のうち、あまり古いものは当時に状況がわからないので、1980年代後半のバブル崩壊以降に注目します。リーマンショックの時と東日本大震災の時は安値圏での急落、ネットバブルの時は高値圏での急落です。急落の後の動きとしては、安値圏での急落は安値形成となり、底打ち反転につながっていった一方で、高値圏での急落は上昇相場から下落相場への転換で、下落相場の始まりでした。1日の下落率として14位以内には入っていませんが、1990年1月も同様でした。今回も高値圏での急落です。
安値圏の急落の場合、どのような状況でしょうか。株価の下落が続きマイナスリターンが膨らみ、投資家のリスク許容度がどんどん小さくなり、最終局面で一気に投げ売りが入る、いわゆるセリング・クライマックスです。一方、高値圏での急落の場合はどうでしょう。株価上昇が続き、投資家はリスクに鈍感になり積極的に買い上がり、結果として株価が実体よりもはるかに高いところまで上昇し、その均衡が一気に崩れる、ということでしょう。
昨日の急落の場合はどうでしょうか。11月14日に野田前首相が衆議院解散の決意を表明してから、昨日の午前10時30分ごろまでほぼ一貫して上昇を続け、その間の日経平均の上昇率は84%に達しました。日経平均のPERは18倍に迫りました。世界で最も収益力が高い米国株のPERが16倍、ドイツ、イギリス、フランスも16倍です。それらの国に対して日本のPERが割高で適正だ、という合理的な理由は見当たりません。日経平均の今期予想EPSは897円です。PER16倍なら14,352円となります。つまり、現在予想されている業績を基にすれば、14,000円近辺が最大限の実態だということです。人口動態、財政問題など日本には独自の問題があるため、PERはある程度ディスカウントされてしかるべき、という見方もあり得ると思います。PER14倍なら12,558円です。
1990年、2000年の高値圏での急落の後、それまでの株価上昇は「バブル」「ネット・バブル」と呼ばれるようになりました。それはまさに、それまでの株価上昇が実態をはるかに超えたものだった、バブル(泡)はある程度は膨らむが、限界を超えると一気にはじける、という意味です。さて、今回のアベノミクス相場ですが、本屋に行くと「いまのこの日本株バブルに乗って、大儲けしよう」という趣旨の書籍が多く目につきます。少なくとも1980年代のバブルの時は、その当時はバブルなどと呼ばれていませんでした。はじけるとは思っていなかったからです。今回は、今はバブルだ、と認めているのです。「今はすでに実力以上に株価が上がっているが、はじけるまでにはもう少し間があるので、飛び乗り飛び降りしましょう」と言っているのです。実に無責任なアドバイスであり、それを真に受けて不幸なことになる個人投資家の方が気の毒でなりません。