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2013年6月24日のマーケット・コメント

外人投資家が高評価する成長戦略とは

 

前回のコメントで、外人投資家が好評価するのは、既得権益者に切り込むような規制改革である、とお伝えしました。今回はその点を詳しくお伝えします。

 

経済刺激策は、バラマキと規制緩和とに大きく分けられます。外人投資家は、日本人が感じている以上に日本の財政状態に問題を感じており、財政規律の確保と相反する方向であるバラマキについては、全く評価しません。財政出動は典型的なバラマキですが、補完的財源確保のない減税もバラマキです。現在検討課題になっている設備投資減税や即時償却を含む法人税減税策は、形を変えたバラマキであるという点、およびそれによりメリットを受けられる企業が限られるという点(内部留保が潤沢、業績好調などの条件を満たす企業に限られ、また優遇措置があったとしても必要以上の設備投資を行う企業は無いと思われる)で、外人投資家からの評価は限定的でしょう。

 

規制緩和についても、これまでに決められた国家戦略特区や容積率緩和などの、いわば「痛みの伴わない」規制緩和では、外人投資家は日本の構造を変えようとする安倍政権の意気込みを感じず、評価には繋がりません。外人投資家は小泉政権時代の規制改革を高く評価しました。その理由は、郵政民営化に代表されるような痛みを伴う規制改革や、社会保障制度の見直しなどやはり痛みを伴う改革により、財政規律の回復を目指したからでした。痛みを伴う変更でなければ、本気だとは思えないため評価につながらないのです。

 

誰でも同じだと思いますが、自分では当然に合理的であると思っていることを相手が行っていない状況で、相手がわかってくれて自分と同じことをするようになれば評価の対象になるでしょう。それが相手にとって痛みを伴うとなればなおさらです。今回の場合、外人投資家がそのような観点で注目している改革が3つあります。実現のハードルが高い順に、解雇基準の緩和、農地取引規制緩和と株式会社の農地保有解禁、混合診療解禁、です。私が知る限り、どれも日本独特の規制です。また、竹中平蔵氏は規制緩和の対象にしたい意向のようです。

 

まず解雇基準の緩和です。多くの場合、企業業績は景気動向に影響を受けます。景気がいい時は企業活動は活発化し、多くの従業員が必要になりますが、景気が悪い時は企業活動は停滞し、必要のない人員を削減して人件費削減を図り、収益を守る必要があります。企業経営者の立場なら、当然そうするべきですし、株式会社の場合、それは株主のための行為でもあります。私は日本以外のすべての国の状況を知っているわけではないですが、少なくとも米国や英国では金銭解雇が普通に行われています。しかし日本は、現在の法制度では従業員を守る方向に強くバイアスがかかっており、正規社員の解雇は容易なことでは行うことができません。企業は身を守るために仕方なく、派遣社員などの非正規社員という制度を活用せざるを得ません。外人投資家は、これが日本企業、特に製造業の国際競争力の弱さの一つの原因だと考えています。しかし労働組合などの抵抗は必至であり、解雇基準緩和実現のハードルは極めて高いでしょう。

 

農地にかかわる規制も同様です。経済合理性を考えれば、資本力のある株式会社が大規模に農業を行った方が効率的でしょう。しかし、特に地方部で農業従事者が選挙において多くの票を持っているという状況から、小規模農家保護という政策に切り込むのは困難な状態が続いています。しかし、世代交代が進むことにより、農業従事者人口の減少、農地の集約化などが徐々に進行しており、実現のハードルは徐々に低くなってきているようにも思えます。TPP参加と合わせて、農地規制緩和が実現する可能性はゼロではない、と思われます。

 

最後に混合診療解禁です。混合診療とは、一つの治療において、保険適用診療と保険適用外診療を混合して使うことです。現在では、治療の一部に保険適用外の物を使うと、すべてが保険適用外扱いになります。例えば骨折した場合、回復を早めるために保険適用外の機器を使うと、それを使わなければ保険適用される治療もすべて保険適用外となります。なぜそのような制度になっているのか、決定的な根拠はいまだによく理解できません。日本医師会は、混合診療はお金のある人とない人の間で不公平が生じる、混合診療解禁になると本来は保険適用になる治療が保険適用外のままになり、患者の費用負担が増える、などの理由で反対していますが、十分に説得力があるとは言えないでしょう。むしろ、社会保障費増加が国家財政悪化の大きな原因の一つになっているわけですから、社会保障費削減を狙い混合診療を認めると同時に保険適用範囲を狭める、としたほうが経済合理性があり、外人投資家には評価されるでしょう。実現のハードルは3つの中で最も低いように思います。

 

以上3つが参議院選挙後に出てくると言われている追加の成長戦略で盛り込まれてくるかどうかで、外人投資家に好評価されるかどうかが決まります。安倍政権の「本気度」が試されるということになるわけですが、個人的には既得権益保有者を打破するほどの「本気度」を、安倍政権が持っているとは思っていません。痛みの伴わない話に終始して終わり、だと思っています。