高額消費だけ好調の背景
今日の日経新聞11面に、百貨店で美術・宝飾・貴金属の売り上げが好調だ、という記事がありました。グラフを見ると、美術・宝飾・貴金属の4月の売り上げは、前年同月比20%近く伸びています。一方、百貨店全体の4月の売上は、前年同月比マイナスです。3月に需要の先食いをした可能性と、4月は所得の伸びが無かったため、全体としてのマイナスは仕方なく、全体としての売り上げ増加定着には所得の伸びが欠かせない、としています。
百貨店だけでなく、スーパーもコンビニも4月の売り上げはマイナスでした。これも所得が伸びていないから当然だ、ということになるのでしょうが、なぜ高額消費だけが好調なのでしょうか?それは、アベノミクスの効果は、今のところ資産効果に限定されているからです。
アベノミクスが始まって、円安株高となりました。これにより恩恵を受けた人は少なからずいたでしょう。日本株投資、外貨投資をしていた人たちです。美術・宝飾・貴金属REITに不動産を売却できた、という形で恩恵を受けた人もいるかもしれません。投資活動をする人は、お金が余っている人ということになりますから、一般的には富裕層でしょう。アベノミクス相場で、一時所得を得た、もっとわかりやすく言うと株でこんなに儲かっちゃった、ということで、高級外車や美術・宝飾・貴金属を買った、ということでしょう。
今のところ高額消費だけの状態ですが、これが起点となっていずれ広範囲の景気浮揚につながればいいのですが、気になる点がいくつもあります。まず、これによる恩恵を受けているのは、ほとんどが海外企業である、ということです。高級外車にしても高級ブランド品にしても、基本的にすべて外国製品です。百貨店は日本企業ですが、全体の売り上げはマイナスですから、恩恵を受けているとは言えません。高級ブランドの直営店は、百貨店における高額消費20%増よりも、はるかに売り上げを伸ばしているのではないでしょうか。富裕層の多くは、高級ブランド品を百貨店で買うよりも、直営店で買うでしょうから。
さらに気になるのが持続性です。投資で儲かったお金の一部を高額消費に回す、という構図ですから、それが持続するためには儲かり続けなければなりません。日本株投資であれば、株価が上がり続けているうちはいいのですが、株価が下落しなくても横ばいになってしまっただけで儲かり続けられなくなります。ましてや株価が下落した場合には、一気に財布のひもが締められるでしょう。
所得についてはどうでしょう。会社経営者が従業員の給与を上げるのは、実際に大幅な利益が出てきてからです。今期儲かりそうだから、先に従業員の給与を上げてやろう、などという経営者はいません。証券会社はすでに大幅な利益が出ましたので、賞与の大幅増が報じられていますが、全体からすればごく一部に過ぎません。大部分の企業は、「もし今期大幅業績増加で終われば、給与や賞与の引き上げを考える」という状況でしょう。つまりどんなに早くても来年の6月のボーナスから、ということです。
今期本当に多くの企業で業績が大幅に成長するのか、も疑問です。秋から冬には円安による輸入物価上昇が完全に顕在化し、消費者の暮らしだけでなく、企業活動にも負担となってきます。十分に販売価格転嫁できるとは思えないため、費用増加のうちある程度の部分は企業負担とするでしょう。今期下期の業績は下方修正リスクが高い、と思われます。そのような中、所得が上がるどころの話ではないでしょう。
ところで、本日昼に安部政権の成長戦略第3弾が発表されました。これまで言われてきたことのまとめにすぎず、なんの目新しさもなかったため、日本株は失望売りに押され、為替もそれに引っ張られて円高進行となりました。信用取引の状況を見ても、先週末時点での買い残は2007年後半以来の高水準であり、やはり日本株の上値は重そうです。日本株に対する慎重姿勢と、ドルの買い場到来を再度確認します。