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2014年11月11日のマーケット・コメント

もし「月内衆議院解散、年内選挙」になったら

 

一部メディアで「月内衆議院解散、年内選挙」の可能性が報じられています。安倍首相は先週「解散は考えていない」と発言しましたが、たとえ解散を選択肢の一つとして考えていても「解散を考えている」と発言するわけがなく、可能性はあると思います。年越しで選挙活動をするのは考えられませんので、投票日が12月21日とすると来週中には衆議院解散する必要があります。ちょうど2年前は、11月16日解散、12月4日公示、12月16日投票でした。(今週中は安倍首相が海外訪問のため日本にいないため、解散の可能性はありません。帰国は17日の予定です。)11月17日に7-9月期GDP速報値が発表されます。ここにきて解散選挙論が浮上してきた背景には、7-9月期GDPが相当弱いことがあるのではないか、と推察されます。

 

「月内解散、年内選挙」となる、という前提で考えてみましょう。選挙は、野党がダメダメなこともあり自民党が勝つでしょう。問題は「何のための選挙」になるかであり、それは2つ考えられます。すなわち「消費税を8%から10%に引き上げるため」か「引き上げを先送りするため」です。その2つは真逆の目的ではありますが、どちらも考えられるのです。選挙に向けて、そのどちらを自民党が打ち出してくるかにより、市場の反応も大きく変わってきます。

 

まず「消費税を8%から10%に引き上げるため」を打ち出してきた場合です。その場合「財政再建化を図る必要と現在も巨額で将来も増加継続が確実な社会保障費の財源確保のために、国民の皆さんには負担となりますが、消費税を8%から10%に引き上げさせて下さい。足元の景気が悪いことは十分認識しておりますので、早急に大型の景気対策を実行します。」という主張になるでしょう。その場合の市場への影響は、国内景気の更なる冷え込みを懸念して、日本株に対しては多少の下落要因になる以外には、基本的にほとんど無いでしょう。現在の市場に織り込まれていることは、「足元の景気はかなり弱いが、日銀の追加緩和の後押しもあり、8%から10%への引き上げは予定通り行われる」ですから、市場の予想通りの展開になるわけです。

 

問題は「引き上げを先送りするため」を打ち出してきた場合です。その場合「国内景気は明らかに弱い。財政再建化には中長期的に取り組む必要はありますが、短期的には更なる景気減速リスクを取り国民生活を脅かすわけにはいきません。8%から10%への引き上げは景気回復が十分になっていると思われる1年ないしは1年半先送りします。」という主張になるでしょう。ドル円は円安進行となり、115.53円の直近高値を超え120円に迫っていくでしょう。国内景気腰折れリスクが回避されるとして、ごく短期的には日本株の多少の上昇要因になるかもしれません。しかしその後、市場には激震が走ることになります。「消費増税先送り」は海外投資家にとっては、スーパー・ネガティブ・サプライズだからです。

 

日本にいると実感がわかないかもしれませんが、海外では日本の財政状態には大きな懸念があります。「金融緩和、財政出動と財政再建化にバランスよく取り組んでいく」と国際会議の場で、安倍首相は何度も発言してきました。その約束が反故にされ、日本は財政再建化に真剣に取り組む姿勢がなく、日銀の大規模国債買い取り政策はモラルハザードによる国家財政ファイナンス以外の何物ではない、という議論が海外からわき立つでしょう。さらにそればかりでなく、財政再建化の後退という国家として非常に重要事項を、選挙という形でポピュリズムに任せるという、政権の政策決定機能の放棄だ、という指摘も出てくるでしょう。

 

海外からの批判を受け、中長期外人投資家は、通貨としての円、国家としての日本に大きな懸念を持ち始め、円資産の売却を始めます。円売り、日本株売り、日本の不動産売り、です。すなわち、かつては「円安=株高」の相関があり、今年はその相関がほぼなくなっていますが、いよいよ「円安=株安」という相関への転換が明確になっていきます。日本独自の悪材料による動きですから、この場合は海外株式市場が下落しなくても日本株だけ下落する展開になります。実際には日本株の大幅下落が、世界の株式市場に悪影響を及ぼす、という展開になると思われます。

 

当然そうなったら、円安進行は加速します。加速する円安進行を受けて、輸入物価上昇も加速し、早晩インフレは2%に達するでしょう。しかしそれは現在と同様に、「所得増加を伴わないインフレ加速」であり、国内景気の一層の押し下げ要因になります。黒田総裁は明らかに消費増税賛成論者です。政府の失策がそのような事態を招いたとすれば、日銀はインフレ2%達成と胸を張るのではなく、日銀と政府の間の不協和音が大きくなり、最悪の場合黒田総裁は辞意を表明、アベノミクスの完全な失敗となり安倍首相も辞職に追い込まれる、という事態に発展するでしょう。以前黒田総裁が会見で述べていた「手の打ちようがない」状態に完全突入です。

 

もし来週中に衆議院解散となれば、市場にとってはサプライズであり、まずは反射的(理屈抜き)に短期投資家はポジション縮小の動きをしてくるでしょう。つまり、これまでの動きと逆の方向に市場は動くということであり、今であれば株安円高ということになります。そこはドル円の絶好の買い場です。万が一に備えて、ドル円を買い下がれるように、あらかじめ下の方まで指値を入れっぱなしにしておくことをお勧めします。