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2014年11月13日のマーケット・コメント

政府と日銀の不協和音の顕在化始まる

 

昨日、衆議院の予算委員会に黒田日銀総裁が呼ばれ、追加緩和のことを聞かれました。その時、黒田総裁は「追加緩和は、消費税が8%から10%へ2015年10月に引き上げられることを前提にしたものだ。」と述べ、「消費増税は予定通り実行すべき」というこれまでの主張を貫きました。明らかに、「消費増税先送りの是非を問うために、月内解散年内選挙」という正解の流れに反対を表明しました。

 

更に「日銀が行っている金融緩和(=大規模国債買い入れ)は、財政ファイナンスではない。」と述べましたが、この言葉の意味は「政府が財政再建化に積極的に取り組んでくれているうちは、日銀の金融政策が海外から財政ファイナンスだと見なされるリスクは低いが、財政再建化を放棄したと見なされたら、海外から財政ファイナンスとみなされてしまう。」ということでしょう。

 

せっかく追加緩和で、消費増税決断を後押ししたつもりなのに、いきなり政府サイドから消費増税先送りなどという話が出てきて、黒田総裁ははしごを外された気分なのでしょう。更に今日の日経新聞の1面を見てびっくりしました。「自民、円安対策、公約へ」とあります。これまで黒田総裁は一貫して「円安は日本全体にとってよいことだ。」としてきましたから、自民党はこれと全く逆行することを公約に盛り込むというのです。

 

円安対策として具体的にどのようなことを念頭に置いているのか、まだわかりませんが、「エネルギー価格の高騰や急激な円安などに対処」というキーワードから、政府ができる具体的手法を考えてみます。金融政策は日銀の専権事項ですから、(少なくとも表向きは)政府は関与できません。為替介入はどうでしょう。かつて円高対策として行った円売りドル買い介入は無尽蔵に出来ました。しかし円安対策の介入となると、ドル売り円買いとなり、手持ちのドルの範囲でしかできない上、手持ちのドルのほとんどは米国債であり、米国が売らせてくれるわけがありません。

 

そうすると、政府はドル円レートそのものを動かす対策は出来ず、円建て価格の変動をマイルドにする対策しかできないことが浮き彫りになります。つまり、減税と補助金です。たとえば、ガソリン代の値上がりをコントロールするために、現在1リットル48.6円課税されている揮発油税の税率を引き下げる、電力会社に補助金を出し電力料金引き上げを抑える、輸入品の関税を引き下げる、などです。重要なことは、どれも税収減少か歳出増加要因だということです。つまり、財政再建化と完全に逆行します。

 

日本人が日本のことを考えると、客観的に考えにくくなりますので、「ある国」のこととしてみましょう。

 

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「ある国」では過去の放漫財政がたたり、政府債務はGDPの3倍に迫ろうとしています。しかし「ある国」の国民は昔から勤勉で貯蓄好きだったので、その巨額な個人金融資産の蓄積が政府債務を消化してきました。しかし、政府は放漫財政を一向にただす気配はなく、政府債務の増加は加速し、ついに数年後には個人金融資産では賄いきれなくなることが予想されました。その状況を受け将来世代に残す負の遺産を少しでも減らすために、前の首相が首相生命を賭して2度にわたる増税を実施することを決めました。それがたたり、前の首相は国民からの人気が無くなり、選挙で大敗し首相ではいられなくなりました。

新しい首相はこれまでで一番気前のいい首相です。政府債務が数年以内に個人金融資産では賄えなくなる、と聞いた首相は、「だったら中央銀行に引き受けてもらえばいいじゃん。それなら無制限に出来るでしょ。」「しかし、財政健全化を放棄したと海外から見られたら大変です。大幅な通貨安になってしまいます。」「これまで通貨高にみんな苦しんできたんだから、通貨安になったらみんなハッピーでしょ。前の首相が決めた増税はやりますから財政再建化もちゃんと考えています、と海外で言いまわれば、財政ファイナンスとは言われないでしょ。」このようなやり取りの後、中央銀行による国債の巨額引き受けが始められました。予想通り通貨安が進み、最初は喜んでいた国民もだんだんと通貨安にはデメリットもあることに気がつき始め、さらに1回目の増税で生活が苦しくなってきて、新しい首相の人気はだんだんと無くなっていきました。人気の低下に焦りが出てきた新しい首相は「国民の人気を取り戻そう。そのためには国民が望んでいることを公約にして、選挙をしよう。そうすれば人気急回復間違いなし。」と、2回目の増税の先送りと、通貨安のデメリットの穴埋めとして国民にお金を配ることを公約に選挙をすることにしました。国民は大喜び。新しい首相は、みごと選挙で大勝利。狙い通り、人気は急上昇しました。

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ここまでお読みになって、この「ある国」についてどうお感じになりましたか?それがまさに、海外から見た今の日本の評価なのです。

話の続きを書くと、

 

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選挙に大勝利した首相は、上機嫌で国際経済会議に向かいました。しかし何か異様な空気が漂っています。まず、D国の首相が発言します。「あなた方の国は多額の政府債務を抱えていらっしゃる。だからこそ財政再建化は重要だと、あなたも何度もおっしゃってましたね。増税先送りの是非を選挙で問えば、先送り賛成になるに決まってます。増税を望む国民など、世界のどこにもいないのですから。国民の人気取りの今回の選挙により財政再建化からの後退と、中央銀行による国債引き受けを合わせて考えると、あなたの国は禁じ手である国家財政ファイナンスを行っているという結論にしかならないのですが、ご説明をお願いします。」「えー、財政再建化を決して放棄したというわけではなく、現状の経済状況が芳しくないので、十分な景気回復が見込まれる2017年4月には必ずや増税は実行します。」E国の首相も発言します。「我々の国でも歳出削減に取り組み、財政再建を果たそうとしている。社会保障が少なくなり、国民から不満も出ている。しかし将来世代のために財政再建に取り組まなければならないのが、政治家の使命だ。財政再建化を犠牲にして国民の人気を取るとか、増税は景気が良くなってから、などという考えがあることを知り、大変驚いている。2017年4月に向けて、もし経済状況がよくなかったら、また延期するつもりなのか。」「いや、あの、2017年4月には政策効果がフルに発揮され、必ずや景気回復を果たしていると確信しております。」一同「・・・・・」ついにA国の大統領が口を開きました。「ではあなた方の国が、どのような方法で、いつまでに、どのくらいの財政健全化が図れるのか、数値とともにロードマップを作ってもらい、次の会合で我々に説明して頂きたい。」「も、も、もちろん、そうさせていただきます。」

帰国した首相は幹部を集めて、会合で求められたことを話しました。首相は財務省の高官に言いました。「主要国のみんなが納得するようなロードマップを作ってくれよ。」財務省高官が言いました。「わかりました。具体的にはこれから詰めていきますが、歳入増加と歳出削減をいかに図るか、どのくらいのスピードでやらなければいけないか、ということを軸に作ります。」首相が尋ねました。「歳入増加とさ出削減というと・・・?」「増税と社会保障の削減です。」「ばか、そんな事を言ったらまた国民からの人気がなくなるじゃないか!」「でもそこを避けて、財政再建化のロードマップは作れません。」首相は怒鳴って部屋を出ていってしまい増した。「それを考えるのがおまえらの仕事だろっ!!!」

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さあ、海外投資家たちは「ある国」の通貨や株に対して、どういう行動を取ってくるでしょう。