目的も出口もわからない日銀のETF買い入れ
これはある経済誌のコラムに寄稿予定の原稿です。
2010年12月から始められた日銀による株式指数連動ETFの買い入れは、先日の追加緩和で1年間の購入枠が1兆円から3兆円に拡大された。日銀のETF買い入れは、一般的には金融緩和の一環として捉えられているが、果たしてそれは正しいだろうか。
日銀が買い入れ対象にしているETFは、日経平均連動ETFとTOPIX連動ETFだ。ETFの運用業者はETF価格が、それらの指数に連動して動くことを目指して運用する。もしETFに大量の買いが入り、連動を目指す指数と乖離が生じた場合、運用会社は新規のETFを発行してそれを市場に売り出すことにより、指数との連動性を保とうとする。したがって、市場で他の投資家からETFの大量売却が出ない限り、日銀が大量にETFを買い入れた場合、ETFの発行残高の増加となる。運用会社は発行残高増加を受けて、指数先物を購入するなどして指数との連動を図る。つまり、日銀のETF買い入れによって発生するのは、株式指数先物などの購入のみであり、これを金融緩和策と言えるのだろうか。野村、大和、日興の3社が運用している株式指数連動ETFの発行残高総額は、11月末時点で日経平均連動ETFが合計約4兆3000億円、TOPIX連動ETFが合計約3兆8000億円だ。日銀の営業毎旬報告によれば、11月20日時点の日銀の保有ETF残高は約3兆4200億円で整合性がとれる。
金融緩和と言いながらも目的は株式市場の買い支えだ、という指摘も多数ある。日銀のETF買い入れが株式指数先物などの買いに繋がるのであれば、確かにそう見ることもできる。しかし、日銀のこれまでの買い入れの手法を見ると、これも疑問に思えてくる。これまで「株式指数がある程度下落している日に買い入れを行う。今年10月までは1回に100-150億円程度、11月は1回380億円」というのがこれまでの買い入れ手法だ。11月は5回の買い入れを行ったが、買い入れ日の日経平均は11月5日75円高、10日100円安、14日98円高、17日517円安、21日57円高だった。いずれも買い入れ額は380億円であり、もし本当に株式市場の買い支えが目的なのであれば、5日、14日、21日には買い入れを行わず、大幅下落した17日に大量に買い入れを行うべきなのではないか。これまでの買い入れ手法は、買い支えというよりそれと真逆の「市場インパクトを極力抑えて粛々と買い増しを行う」という手法だ。中央銀行が自国の株式を粛々と買い増す、その意図はどう考えてもわからない。
また出口も不明だ。2010年12月の開始から2年間は日本株市場は低迷が続いていたが、日経平均が17,000円台で推移した11月にもまだ買い入れは続け、しかも今後買い入れ額を大幅増額させるという。本来中央銀行のバランスシートに自国の株式があることは異常な状態だ、という認識はないのだろうか。高値になっても買い続け、しかもその買い方を加速させる、それは株価下落で破滅する典型的な投資家に思えてしまう。