原油価格-下落相場の終了に必要なこと
原油価格が大幅に下落しています。昨年7月には100ドル以上でしたが、昨年11月には70ドル割れ、更に今年に入って50ドル割れまで下落しました。半年足らずで半値以下という激しい下落です。この下落の背景は、中国を始め多くの新興国や欧州の景気悪化が続き、需要増加が低迷する一方で、米国のシェールオイルを中心に様相をはるかに超えるペースでの増産が行われ、供給が予想以上に増加したことです。
原油などの資源価格は需要と供給で決まります。したがって現在の原油価格下落が止まるためには、価格下落を受けることにより、需要が増加するか供給が減少するか、いずれかが必要です。現実的には需要が急増することは想定できず、問題は供給がいつ減少するか、に集約されます。
原油の採掘コストは、採掘条件によって大きく異なります。中東のように砂漠に穴を掘れば採掘できるような条件であれば、採掘コストは10ドルにも満たないのですが、困難な場所からの採掘になればなるほど採掘コストは高くなります。米国のシェールオイルの採掘コストは約60ドル、ロシアの採掘コストは約70ドル、海底から採掘するブラジルや湖底から採掘するベネズエラの採掘コストは約80ドルだそうです。原油価格つまり売り値が50ドルだとすると、コストが10ドルのサウジアラビアは40ドルの利益が残りますが、シェールオイルは10ドルの赤字、ブラジルやベネズエラに至っては30ドルの赤字になります。操業すればするほど赤字が増えていく、ということです。
一般的には、操業すればするだけ赤字が増える事業であれば、操業を停止し、その結果全体の供給が減少することになり、価格下落が止まります。しかし、ロシア、ブラジル、ベネズエラなど採掘コストの高い国にとって、産油産業は国の基幹産業となっており止めるわけにはいきません。米国のシェールオイル生産業者は民間企業ですから経済合理性で動きますが、彼らも設備投資して稼働開始して間もない段階で操業停止では、初期投資をまだほとんど回収できないことになり、やはり操業停止は受け入れがたいでしょう。赤字業者が窮地を耐えて頑張れば頑張るほど原油価格下落が進み、ますます窮地に陥る、という様相です。
そうなると強制退場による供給減少しか、価格下落を止めるシナリオが描けなくなります。強制退場とは「破たん」です。どんなに頑張っても我慢しても、もはや事業を続ける資金繰りのめどが立たない、というところまで追い込まれるということです。
大きな下落相場の終了には、大きな破たんがつきものです。記憶に新しいところでいえば、2007年から2008年のサブプライム問題は、問題顕在化した2007年7月のパリバ・ショックから始まり、2008年3月にはベア・スターンズが破たん、それでも足りずに2008年9月にリーマン・ブラザーズとAIGが破たん(正確にはAIGは国営化)に至り、ようやく下落相場が終わりましたが、その後半年は低迷が続き、反転上昇を始めたのは2009年3月でした。
今回の場合の大型強制退場候補は、ペトロブラス(ブラジル石油公社)破たんおよびベネズエラのデフォルトが筆頭でしょう。少なくともそれらが起こるまでは原油が下げ止まることはなく、それらが起こってもそれで十分なのか、多数の米国シェールオイル企業の破たんなど、まだ更なる大型強制退場が必要なのかを見極める必要がある、ということです。供給の大幅増加の原因がシェールオイルだということを考えると、多数のシェールオイル企業の破たんまで行かないと十分ではない可能性が高いと思います。強調したいのは、決して値頃(50ドル割れまでいったんだから、あるいは半値になったんだからもういいだろう、などという見方)で判断してはいけない、ということです。