「リスクオフ」のメカニズム
昨日、トルコでロシア空軍機が領空侵犯で撃墜、パラシュートで降下中のパイロットが射殺されたことを受け、欧州市場では「リスクオフ」の反応となり、株下落、債券上昇に加え、円高、原油高の反応となりました。リスク削減で、リスク資産である株を売る、安全資産である高格付け債券を買う、というところまでは理屈がつきますが、円高、原油高は理屈では説明がつきません。
かつて、日銀が異次元緩和を行うまでは、日本は債務残高は多額だが、さらに多額の個人金融資産に支えられ、債務(主に国債)は健全に国内消化されていました。その時期は、円は通貨としての安定性が高く、さらに傾向として円高が続いていましたから、「安全資産」とみなされる理屈がありました。しかし今では、日銀が国債の発行残高の3割以上を保有し、さらに増加傾向がどこまで続くか見通しの立たない状況です。また、それがゆえに傾向として円安が続いている中で、円が安全資産であるという理屈は何もないのです。
原油もしかりです。トルコもシリアも産油になんら関係ありません。ロシアとトルコが国境を接する黒海地域で緊張感が高まっても、産油には関係ありません。リスク削減で原油が代われる理由は何もないのです。
この「リスクオフで円高、原油高」という反応は、理屈ではなく単に「短期ポジションの解消」と考えれば理解しやすいでしょう。売りからも買いからも入る短期投資家にとって、リスク削減はポジションの縮小を意味します。また短期投資家の多くは、逆張りではなく順張りの(短期トレンドに沿ったポジションを取る)傾向がありますので、短期投資家のポジションは基本的に直近の動きに沿った方向に傾いています。円と原油は、直近の動きは両方とも下落でしたから、ポジションはそれらのショート(カラ売り)に傾いており、ポジションの縮小という行動が円と原油の買戻しとなった、ということです。つまり、リスクオフで円高、原油高、という反応は、株下落、債券上昇とは違い、短期投資家のポジション調整が終わるまでの期間限定です。
これと同様のことが最近の日本株にも当てはまります。海外株が下落しても、ドル円が円高進行しても、日本株は異様に強い動きをしています。これを「政策期待」「割安感」「相対的な好業績」などと無理やり理屈をつけても意味がなく、背景は単に「まだショート(カラ売り)に傾いた先物投資家のポジションの整理が終わっていないこと」です。先物のショート・ポジションの整理が、私が当初予想していたよりもかなり長引いているのは事実ですが、いつまでも続くものではなく、早晩、下げ渋っていた分ドスンと下げるパターンだと思います。
ドル円は、122円台前半から下はゆっくり買い下がり始めるべき水準だと思います。米国の利下げ予想に変化がない限り、下値めどは121円と考えられるからです。