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2015年12月4日のマーケット・コメント

バランスシート拡大リスクに対する日欧中銀の姿勢の違い

 

欧州中央銀行(ECB)は12月3日の理事会で、ドラギ総裁の事前示唆通りに、追加の金融緩和策を行うことを決定しました。しかしその内容は、金融機関が余剰資金を預け入れるECB預金の金利を従来の-0.2%から-0.3%に引き下げることと、現在行っている毎月600億ユーロ(約8兆円)の国債などの資産買い入れを行う期間について、従来の「少なくとも2016年9月まで」を「少なくとも2017年3月まで」と期間延長したことに留まりました。市場が期待していた、買取り対象資産の拡充や買取り額の増額は今回は見送られました。すなわち、バランスシートの拡大加速リスクは避けられた形です。

 

実は、ECBのバランスシート拡大リスクに対する慎重姿勢は今に始まったことではありません。あまり報じられないのでご存知の方は少ないかもしれませんが、国債の買い入れによる量的金融緩和を始めて以降、ECBの国債保有残高は対国債発行残高比で一度も10%を超えたことがないのです。この要因は、量的金融緩和を行っていない時期に保有国債の売却を行ったことや、満期償還資金を再投資しなかったことです。20世紀前半の自らの苦い経験から、中央銀行の国債買い入れという手法に強い難色を示すドイツに対する配慮が背景にあるのでしょう。今後も「余程のこと」がない限り、買い入れ額の増額に対しては慎重姿勢を貫くと思われ、また「余程」の程度も相当深刻な状況であることが想定されます。

 

一方、日銀は年間80兆円のペースで国債買い入れを行っています。毎月約7兆円と買い入れ額はECBよりやや少ないですが、大きく異なるのがバランスシート拡大リスクに対する姿勢です。日銀は、現在行っている量的質的金融緩和開始以来、まったく国債を売却していません。また、満期償還資金は国債に再投資しています。その結果、日銀の国債保有残高は対国債発行残高比ですでに30%を超えました。10月30日の決定会合後の会見で黒田総裁は「かつてイングランド銀行は70%まで買った」と、バランスシート拡大リスクをまったく意識していないことを事実上表明しました。日銀により、70%は記憶違いで正しくは40%、と後に修正されており、現在のペースでの買い入れが続けば、2017年中にも前人未到の40%を超えます。

 

「デフレからインフレへ」という目的も「中央銀行による国債買い入れ」という手法も共通しているので、ECBも日銀と同様の状況だと思いがちです。しかし、バランスシート拡大リスクに対する姿勢はかくも異なります。景気浮揚効果がまだ十分に発揮されておらず、その手法に対する批判が噴出するリスクを抱える、という点も共通していますが、バランスシート拡大リスクを慎重にコントロールしながら行っているECB、そのリスクにまったく無頓着な日銀、どちらが近い将来「事実上の国家財政ファイナンス(中央銀行による財政赤字の補填)」といわれ始めるか、言うまでもないでしょう。