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2015年12月8日のマーケット・コメント

原油価格安値更新-サウジアラビア政府ファンドの換金売り加速要因

 

昨日、WTIは一時37.5ドルまで下落し、8月24日に付けた37.75ドルの安値を更新しました。原油価格の更なる下落は、ブラジルやロシア、シェールオイル業者など、産油コストの高い生産者にとっては操業赤字拡大要因になるのは言うまでもないですが、産油コストが低く操業黒字の中東諸国にも大きな悪影響を及ぼし、それが世界的に市場に対する悪影響につながります。

 

その代表例がサウジアラビアです。産油コストが1バレル当たり10ドルにも満たない同国は、もともと豊かな産油国として国民に対してばら撒き体質の国でしたが、「アラブの春」を受けて国民の不満が王制に向かうことを恐れて、大盤振る舞いに拍車をかけました。その当時の原油価格は、1バレル100ドル以上でしたので、その価格を前提にして歳入を考え、それに合わせて歳出を決めました。しかし原油価格の大幅下落で歳入が予定を大きく下回り、だからと言って歳出を削減するわけにもいかず、今年の財政赤字(歳入-歳出)はGDPの20%を超える見通しです。

 

財政赤字を補填するために8年ぶりに国債を発行し、それでも足りずにSWFのサウジアラビア通貨庁は一部資金を運用先から引き上げ始めています。昨年9月からの1年間で1,000億ドル(約12兆円)の運用資金引き上げを行った、と推計されます。まだ運用残高はGDPの80%以上の規模がありますが、GDPの20%以上の財政赤字が今後も続けば、5年間で運用資金はすべて引き上げられることになります。また、今年これまでの平均原油価格は約50ドルですが、現在は40ドルを割っていることを考えると、このままいけば来年の財政赤字は今年より拡大することは確実です。

 

言うまでもないですが、運用先は世界中の株式と債券です。当然、日本株も含まれます。運用資金の引き上げは、それらの売却を意味します。市場の需給悪化要因です。また、歳入の大部分を占める原油売り上げ額は「1バレル当たりの価格×数量」ですから、価格下落の分を数量を増やして売り上げを確保したい状況です。価格安定のために減産する、なんて余裕はまったくありません。それは原油の需給をさらに緩め、原油価格の更なる下落につながっていきます。原油価格の更なる下落は財政赤字の拡大につながり、運用資金引き上げを加速させるという、まさに悪循環の構図です。

 

市場が原油価格の更なる下落が意味することに気づき、世界的に株式市場が新たな下落波動入りするのはそう遠くないでしょう。12月16日FOMCで初回の利上げがあり、中長期資金の運用者はその後のクリスマス休暇から帰ってきて、遅くとも年明けには本格的な下落波動が始まる可能性が高いと思います。