「いいとこ取り」を狙うギリシャ
1月25日に行われた選挙で、反緊縮財政を訴えていた急進左派連合(SYRIZA)が勝利し、チプラス政権が誕生しましたが、彼らの狙いがはっきりしてきました。今日の日経新聞7面にも記事が掲載されていますが、ギリシャは既存のギリシャ国債をギリシャの名目成長率に連動させる新しい国債と交換することや、ECBが現在保有しているギリシャ国債を永久債(償還期限のない債券)に振り替えることを目論んでいるようです。
選挙前には、SYRIZA党首のチプラス氏は「このまま緊縮財政を続けて、ギリシャがECBの奴隷になり続けるのはごめんだ」と演説し、言葉通りに取れば、「ギリシャは緊縮財政を止めユーロ離脱」と解釈できました。しかしその場合、「ギリシャ通貨はドラクマに戻り、返すあての無いような形で国債を発行して資金調達をし、ドラクマは大暴落、経済は困窮し再び金融支援を要請」という道筋をたどり、財政規律を守れないことによってユーロを離脱した国が、どんなとんでもない目にあうか、という「見せしめ」になるはずでした。
しかしチプラス氏もそのくらいのことは分かっていたようです。選挙に勝ったとたんに「ユーロから離脱するなどとは言ってない」とユーロにとどまる方針であることを表明し、上記のような駆け引きを始めました。ギリシャ側は、この「財政規律を緩和する」と「ユーロにとどまる」といういいとこ取りが実現できれば、言うことないわけですが、ECB側にとってみれば、それを認めることはモラルハザードに直結する事態です。ギリシャが認められたのなら、とスペインやポルトガルなどの他の財政問題国も同様の駆け引きに出てくる可能性が高いからです。
どこの国でも(日本も含めて)国民にとっては、放漫財政を緊縮財政にするということは、もらえるものが減る、ということですから近視眼的には歓迎しがたい政策です。しかし、ユーロ圏の中心国であるドイツは、シュレーダー改革以来、緊縮財政で財政再建を図り、財政黒字化を果たしています。財政問題国の国民は「もっと国民向けの歳出を増やして、生活を楽にしてほしい」、ドイツ国民からすれば「不真面目な取り組みが財政問題を生んだのだから、我々がしたように真面目に歳出削減をして財政再建に取り組むべきだ」という思いでしょう。さらに言うとドイツ国民は「不真面目な国のツケを真面目な我々が取らされる、という事態はごめんだ」とも思っていることでしょう。
ECBの量的緩和策は、全く効果が出ないか、そうでないにしても少なくともすぐには効果が出ないこともあり、モラルハザードをめぐる駆け引きは時間がかかりそうです。今後、折に触れて市場の混乱要因になっていきそうです。