安倍・黒田会談のオフレコ部分
昨日の日経新聞2面に、今年2月12日に行われた「安倍・黒田会談」で、議事録から削除するよう要請されたオフレコのやり取りがあった、との記事がありました。黒田日銀総裁は以下のことに懸念を表明しました。
1.「消費増税の先送り決定により日本国債の格付けが下げられ、欧州の一部の銀行は日本国債の保有比率を恒久的に引き下げた。更なる格下げがあれば、この動きがさらに広がる。」2.「銀行の自己資本規制を話し合うバーゼル委員会では、米国ドイツ英国などが、いまはリスクゼロの資産とみなされている自国国債保有残高についても、一定にリスクがあるとして見合いの自己資本を積むべきだと主張している。そうなれば、日本の金融期間は資本増資をするか、国債保有を減らすかしなければならなくなる。」
3.「政府は財政再建も政策の柱として掲げながら、税収増加による歳入増加に甘え、一向に歳出削減に着手する様子は無い。このままだと日本国債が更に格下げされる可能性が高い。」
それに対して安倍首相は、「政府債務は巨額だが、同時に巨額の政府資産があるので、ネットで見ると他国と大きな差は無いことを、格付け会社に説明することが重要。」と回答したとのことです。まさに、経済オンチを露呈したと言えるでしょう。ポイントは2点です。
まず、政府債務と政府資産を見るために、日銀の資金循環統計を見ます。直近発表分の2014年12月末時点では、政府債務は1,193兆円、政府資産は552兆円です。差し引くと純債務が641兆円であり、それはGDPの132%の大きさです。「他国と大きな差」があります。また政府資産の内訳ですが、主なものは「証券」が200兆円、「その他」が319兆円です。(「その他」の内訳を調べていて、このコメントを書くのが1日遅れてしまいました。)「証券」は政府が持っている株式(例えばゆうちょ銀行)と投資信託(例えば日銀保有のETF)です。「その他」の中で大きなものは「対外証券投資」であり、190兆円の大部分は外貨準備で保有している米国債です。つまり、政府資産の大部分は流動性がないか、事実上流動性がない(米国債)か、いずれにせよ「絵に描いた餅」なのです。
もっと馬鹿げているのが「格付け会社に説明が必要」という発言です。安倍首相は、格付け会社の調査活動を馬鹿にしているのでしょうか。彼らは上述の政府債務、政府資産の残高や内訳について、当然入念に調査をして格付けを行っているのです。さすがにこの発言には黒田総裁も「説明しても格付けが変わることは無い」と反論したようですが。
結論として言えることは、「安倍政権は歳出削減により財政健全化を図る気は、まったくない」ということです。日本株がピークアウトして明確に下落に転じたとき、すべての化けの皮が剥がれるでしょう。2013年5月23日をもって、私は弱気に転じました。結果としては弱気になるのがずいぶん早すぎ、皆さんにご迷惑をおかけしたと思いますが、いよいよ今年中、それも向こう数カ月以内には局面が大きく変わることに自信を深めています。