ギリシャ&中国
先週財務再建策をめぐり、債権者側との交渉が難航した末に、先週末にギリシャのチプラスは「今回債権者側から提案された財務再建計画を受け入れるかどうか」を問う国民投票を7月5日に行う、と表明しました。これにより、1週間前に市場が期待していた期限までの交渉成立の可能性は、全く無くなったことになり、本日の市場は世界的に「リスク・オフ」の反応となっています。
以前もご説明した通り、チプラス首相は反緊縮を公約に掲げて選挙で勝ち、首相の座を手にした経緯がある以上、債権者側が提示した財務再建案を自らの意思で受け入れる決断をするわけにはいきません。「公約違反」「ギリシャを売った男」などと、ギリシャ国内で総攻撃されるのは確実だからです。そこで国民に決めてもらう、とせざるを得なかったのでしょう。政治家としてはなかなかのやり手です。
国民投票を巡ってのポイントは、「今回債権者側から提案された財務再建計画を受け入れるかどうか」=「ユーロにとどまるかどうかの選択」という位置づけに出来るかどうかです。債権者側は、「再建案を拒否=ユーロから離脱=ギリシャ経済はとんでもないことになる」という位置づけにして、何とかギリシャ国民が冷静な判断をすることを願いたいでしょう。しかし、現政権が反緊縮を掲げて選挙に勝って出来た政権であること、数でいえば多数のギリシャ国民が反緊縮が実現されるならユーロ離脱も辞さず、と近視眼的判断をするだろうと思われることなどから、このままいくと国民投票の結果はかなりの確率で否決になるでしょう。
債権者側にとって最大の問題は、「国民投票の結果、再建案受け入れは否決されました。しかし、ギリシャはユーロから離脱するつもりはありません」と居直られた場合です。過去例がなく、強制的に追い出す仕組みがないユーロの構造的欠陥が完全に露呈します。スペインやポルトガルなど、ゴネ得を狙う予備軍がいる以上、債権者側が大幅譲歩することはできません。債権者側がどういう措置に出てくるか、市場は見当もつかず、リスクを取れない不透明な状況は続くでしょう。中長期グローバル投資家が株式全体の保有高を削減に動き出し、日本も含めて世界的に株式市場の下落転換に繋がる可能性も否定できません。
ギリシャやユーロの問題は、日本経済あるいは日本企業の業績に与える影響は限定的ですが、日本にとって影響がずっと大きいのが先週お伝えした中国株市場の動向です。中国では5月10日に続き、先週末に0.25%の利下げが行われました。明らかに中国株の大暴落を受け、それを食い止めるために措置です。しかし、本日の中国株は反発するどころか、更なる下落に見舞われています。5月10日の利下げに繋がった5月の安値も下回りました。上海総合指数(前場終了時点で4035.477)で言うと、チャート上では次の下値めどとなる節は、現在200日移動平均線がある3,400程度(今期予想PER14倍の水準)までありません。先週、銀行融資規制撤廃の報道、さらに先週末の利下げでも下げ止まらないとなれば、もはや政策では制御できないということであり、自然体で下げ止まるまで待つしかありません。その間、中国株への投資家の多くが大打撃を受けることになります。
来月以降、中国株暴落による中国経済下押し、さらにそれによる日本企業の業績への悪影響という話題が増えていくでしょう。「日本株は安全資産」などとは言っていられなくなるのではないでしょうか。ドル円に関しては、ギリシャの問題も中国の問題も、基本的には「円が買われる、売られる」「米ドルが買われる、売られる」という話ではないので、これまで通り122.50-125.00円(狭く言うと123.00-124.50円)のレンジで当面もみ合い、という見方を継続します。したがって、122円台は買い場だと思います。(限界的なことを言えば、ギリシャ問題はユーロに対する不透明感の台頭からリスク回避で基軸通貨である米ドルの買い、中国問題は日本から中国への輸出減少、貿易収支悪化で円の売り、という要因ですが、当面はレンジを変えるほどのインパクトではないでしょう。)