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2015年7月13日のマーケット・コメント

GPIF3月末の運用状況発表&「ギリシャと中国」続報

 

先週金曜日に、2015年3月末のGPIF運用状況が発表されました。注目の日本株組み入れ比率は22.0%であり、内外株式、内外債券それぞれのベンチマーク、及びドル円レートの時価変動を考慮すると、GPIFは1-3月期に日本株を約1.7兆円、外国債券を約0.5兆円、外国株式を約2.7兆円買い増したと推計されます。また国内債券は約2.4兆円削減され、組み入れ比率は39.4%と40%を割り込みました。

 

さて、すでに7月に入っており、6月末の各ベンチマーク、及びドル円レートは確定しています。時価変動だけを考慮すると(全く売買を行わなかったとすると)、日本株の組み入れ比率は22.9%に増加した、と推計されます。基本ポートフォリオの組み入れ比率25%までの買い余力は約3.1兆円となります。GPIFは日本株を10-12月期には約1.8兆円、1-3月期には上述の通り約1.7兆円買い増しました。もし4-6月期に日本株を1.6兆円買い増したとすると、6月末時点での日本株組み入れ比率は24.0%、25%までの買い余力は約1.5兆円となります。おそらくこの想定から大きく異なっていることは無いと思われ、やはり9月末終了を目指してポートフォリオ変更を行っていると思われます。

 

これまで先進国の株式市場で最も良いパフォーマンスだった日本株の、大きな買い安心材料だった「GPIFの買い増し」が残り少なくなる中、ギリシャ、中国などの外部の悪材料が増大していることを考えると、すぐに下値を抜けるかどうかはともかく、少なくとも上値は重くなっていくでしょう。再来週から4-6月業績発表が本格化しますが、全体としてその内容は期待ほどの迫力はなさそうなので、上値を一層重くする可能性が高いと思います。

 

ギリシャ問題は、債務削減についてドイツが譲歩するとは思えず、結局は合意不調、早晩チプラス首相の辞任、ギリシャで再度総選挙、という結末に終わると思います。チプラス首相辞任までは市場変動要因ですが、辞任表明で出尽くしです。しかし、中国問題は中長期にわたる問題顕在化が今後待っています。逆資産効果についてはすでに簡単にご説明しましたが、もう少し詳しくご説明します。

 

株式市場の上昇は、その売却益を消費に回すという、いわゆる「資産効果」を生みます。日本でも株高により高額品消費が活況を呈しているように、株式市場参加者の7-8割が中国の個人投資家という中国では、今年前半には相当な資産効果が生まれたでしょう。日本は中国からのインバウンド需要増加という形で、その恩恵を受けてきたはずです。

 

株式市場の下落はその全く逆の効果、すなわち「逆資産効果」を生みます。市場で損害を被った投資家は不要不急の消費を避ける、つまり削りやすい領域から消費を削る、という行動に出ます。具体的には、旅行などのレジャーを取りやめたり、自動車、家電製品などの買い替えを控える、などです。これによる日本の企業業績への悪影響は小さくありません。旅行者減少に伴うインバウンド需要減少にとどまらず、自動車、スマートフォンやテレビなど高額家電製品の中国での売り上げの落ち込みの影響を受け、関連企業の業績悪化要因となるからです。

 

この「逆資産効果」は過去に、よい例があります。バブル崩壊後の1990年代の日本です。日本のバブルは1986年3月の日経平均約14,000円から1989年12月の同約39,000円まで4年間弱で株価は約2.8倍、今回の中国株は2014年7月の上海総合指数約2,000から2015年6月の同約5,200まで1年間弱で株価は約2.6倍と、上昇率はほぼ同じです。また、参加者はもっぱら自国の投資家であり、ファンダメンタルではなく株価の値動きのみに注目して買い上がったという共通点もあります。上昇相場の持続期間の違いは、インターネットにより情報伝達スピードが高速化したためと思われます。下落期間も高速化するとすれば、実体経済悪化も同様に高速化するでしょう。1990年代の日本の経済悪化が早回しで起こる、ということであり、その恐ろしさは実体験を持つ日本人にはイメージしやすいと思います。

 

早晩大きな問題になりそうなのは、多くの銘柄が売買停止になっていることです。中国政府は、まさになりふり構わず様々な「株価対策」に打って出ていますが、その中でも最悪の対策がこの売買停止です。政策的に流動性を奪う、すなわち売却して現金化したくてもそれが出来ない、という状態を政策により作り出すということは、資本主義市場では絶対にあってはならないことです。現金を回収できないということは、その証券には担保としての価値がないということになるからです。本日、売買停止銘柄は先週末の1453銘柄から1045銘柄に減ったそうです。しかし依然として市場全体の36%(1045銘柄)の銘柄が、流動性を奪われた状態にある、ということであり、また今は売買できてもいつ突然売買停止になるかわからないのです。もし、外人投資家が中国株を保有していたら、可及的速やかに現金化を図るでしょう。中国の個人投資家がいつ同様の行動に出ても、全く不思議はありません。