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2016年1月27日のマーケット・コメント(2)

原油市場は「囚人のジレンマ」の典型

ちょうど最近、ある経済誌向けに書いた原稿がありますので、ご紹介させてください。(念のためお知らせしますが、編集前の元原稿ですので、著作権の問題はありません。)

原油価格が下げ止まらない。原油に限らず商品価格は需要と供給のバランスで決まる。需要が減少(増加)するか供給が増加(減少)すれば、価格は下落(上昇)する。今回の原油価格大幅下落の経緯を振り返ってみると、下落が始まった背景は、新興国経済成長鈍化による需要減少(正確に言うと需要増加の鈍化)だった。下落に拍車をかけたのが、2014年11月OPEC総会で減産が見送られたことだ。当時原油市場に台頭してきたシェール陣営の勢いをそぐために、採掘コストの高さという彼らの弱点を突いて撤退を促し、自らの存在感を維持すべく原油価格の安値誘導を行った。

ところがOPECの思惑は外れ、シェール陣営は業者の整理淘汰は起こったものの、全体としてはコスト削減努力により耐えた。そうしている間にも新興国経済成長は更に鈍化し、原油需要も更に鈍化し、原油価格下落は続いた。原油価格の一段の下落のきっかけになったのも、2015年11月のOPEC総会で減産が見送られたことだった。しかし同じ「OPECの減産見送り」でも前回とは事情がまったく違った。想定をはるかに下回る水準まで原油価格が下落したことにより、原油売り上げによる歳入が見込みよりも大幅に未達となることで、加盟各国の財政収支が大幅赤字となり減産どころではなくなったからだ。

産油国の現状を整理すると、まず採掘コストの高いブラジル、ロシア、ベネズエラなどは、開発費用が回収できない価格でも、自国通貨安に苦しんでいる中、減産したら貴重な外貨獲得の減少につながるため減産はできない。採掘コストの低い中東勢は、上述のように原油価格下落による歳入不足に苦しんでいる中、やはり減産はできない。特に、軍事的緊張を強めているサウジアラビアとイランは今後の軍事費増加も視野に入るため、むしろ積極増産したいくらいだろう。実際にイランは、経済制裁解除を視野に原油増産宣言をしている。

シェール勢は、コスト削減に成功している勝ち組に負け組みが飲み込まれる形で、プレーヤーの数は減っているが、生産量は減らず、またコスト競争力は向上している。ビジネスにしたたかな勝ち組シェール勢が、減産するなどとは考えられない。

ゲーム理論で「囚人のジレンマ」という有名なモデルがある。お互いに協力したほうがお互いにとって利益になることがわかっていても、協力しないものだけが利益を得られる状況では協力できなくなる、というものである。現在の原油市場はまさにそれを地で行く状況だ。全員でいっせいに減産すれば原油価格は急反発することは明白だが、自分だけが減産して損をするのはいやだという図式だ。囚人たちが釈放される日は来ない。