昨日は北朝鮮水爆実験、今日は元の大幅切り下げ
理由はまったく異なりますが、昨日、本日と2日連続で午前10時15分ごろに、日本株、ドル円ともに急落するという展開です。水爆実験が原因とされた昨日も、それを受けて元が急落しており、今日の昨年8月13日以来の大きさの切り下げの伏線となっていました。北朝鮮の核保有国化リスクは、不透明要因があまりにも多く、ロジカルな議論の対象にはならないため割愛し、ここでは中国経済減速の世界経済に与える影響をあらためて考えます。
言うまでもなく、元が下落している背景は、中国の経済成長減速に対する懸念です。元だけでなく一般論として通貨の下落は、輸入物価の上昇要因(デメリット)であり、輸出競争力の上昇要因(メリット)です。中国の場合、インフレは落ち着いていますので、元の切り下げによって輸入物価の上昇を通じてインフレ懸念に直結することは少なくとも当面ないでしょう。問題はメリットであるはずの輸出競争力の上昇という効果が、中国の場合ほとんど期待できないことです。
「資源価格の大幅下落の影響で輸入が激減したことにより、最近の中国は大幅な貿易黒字国で、輸出競争力の上昇は中国にとって大きいのではないか」と考える方がいるかもしれません。しかし、中国から輸出される工業製品の大部分は、外国企業が開発し、製造装置や部品を輸入して、中国にある工場で組み立てている製品です。その典型がアップル製品です。アップルが設計図を書き、世界中の会社から部品部材を調達し、中国にあるホンハイの工場で組み立てられ世界中に輸出される、というモデルです。日本にある工場で作って輸出はしていても、部材調達がドル建てであれば「為替レートの変化による影響」は存在せず、「通貨安による輸出競争力上昇」はおこらない、というのと同じ構造です。
身近な話としても、日本でそれなりの競争力がある中国会社製品など、ほとんど見かけません。またアップル製品ユーザーのほとんどが、iPhoneやiPadがすべて中国製だということを知らないでしょう。つまり、中国にとって元が下落することによるメリットは、基本的に無いのです。
また、中国から海外への資本流出はすでに大規模に起こっていますが、今後も継続的に元が切り下げられる可能性が高いという見方になれば、資本流出が加速し、それは更なる元の下落につながります。これまで外貨準備を原資に為替介入(元買いドル売り)により事実上のドルペグ体制を続けてきた中国が、ここにきて元を再度(8月13日に続き)大きく切り下げてきたということは、介入により元相場を買い支えることが出来なくなりつつある証左です。
以前と違い、今や中国は世界経済において巨大消費市場となっています。スマホや自動車などの世界売り上げの25-30%が中国市場での売り上げです。多くの中国国民が買い替えサイクルを長期化するという対応を取れば、スマホや自動車などの耐久消費財の中国市場での売り上げは大幅に落ち込みます。その影響は最終製品製造会社だけでなく、部品部材会社、製造装置会社など関連するすべての会社の業績に及びます。中国株下落による中国消費市場の逆資産効果顕在化は、今年からが本番であることを考えると、世界的に主力景気敏感銘柄の株価が売られているのは、まったくもってロジカルな反応といえます。
問題はドル円の反応です。特に、今年に入ってからの円高ドル安は、ドル安主導ではなく円高主導、つまり円が買われています。(ドルユーロはさほど動いていません。)上記の中国の話のどこをとっても、円が変われる理由など何一つありません。したがって円が買われる形での円高ドル安進行の背景は、もっぱら短期投資家による売買(主にポジション整理)だとしか考えられません。シカゴ筋のポジションは相当整理が進んでいますが、クリック365など国内F/X口座には、まだ整理されていないドルロング・ポジションがそれなりに残っているため、本日も株下落に引っ張られてしまっています。しかし、毎日、水爆実験や元の切り下げという大きな悪材料が出続けることは無く、株ももみ合うか小反発する局面があると思われ、そのときにはドル円の120円台回復は早そうです。ただし121円台前半は重そうです。
年末のコメントで以下のように書きました。
「ドル円:1、2月は株下落と3月利上げ観測の綱引き。3月16日の利上げまではボックス圏。レンジは119.50-123.50円を想定。利上げを受けて(あるいは3月前半に利上げを織り込んで)ドル高主導で125円越え。更に4月28日の日銀の再追加緩和を受けて円安主導で135円程度に。」
それを以下のように修正します。
「ドル円:1、2月は株下落と3月利上げ観測の綱引き。3月16日の利上げまではボックス圏。レンジは118.50-121.50円を想定。利上げを受けて(あるいは3月前半に利上げを織り込んで)ドル高主導で125円越え。更に4月28日の日銀の再追加緩和を受けて円安主導で135円程度に。」
現在の118円近辺あるいは117円台は、滞留期間が非常に短い「行き過ぎ」の部分だと思います。ですので「絶好の買い場!」といいたい局面なのですが、ここまで調整が深くなると余力不足が懸念されたり、最悪追証ラインとの戦いになったりしていると思いますので、まずはリスク管理を最優先にして(寝ている間に全決済されていたなどということが起きないように)、ある程度余力に余裕が出来たら買い増しを考える、というご対応をお願いします。