FRB議長と副議長に歩調の乱れ?
先週末、イエレンFRB議長は講演で、「高圧経済をしばらく維持することによって、打撃を受けた米国経済の回復をもたらした」との見解を表明し、緩和的金融政策を今後も維持していく方針であることを示唆しました。「高圧経済」という言葉は経済学用語で「需要が潜在供給力を上回る状態」を指します。そのような状態だと、通常はインフレ率が上昇するため、市場では「インフレ率がFRBの目標とする2%を超えても、緩和的金融政策を継続するのでは」と捉えられ、米国長期金利は上昇しました。
一方、昨日の講演でフィッシャーFRB副議長は、「失業率を押し下げ続ける戦略には限界があり、労働市場のひっ迫を伴う高圧経済の長期継続にはリスクがある。インフレ率が明確に上昇基調となるまで金融政策の変更を待ってしまったら、変更は手遅れになる。」とし、緩和的金融政策を長期化することに懸念を表明しました。
フィッシャー副議長の講演内容は、一見すると先週末のイエレン議長の講演内容を否定しているように見えます。しかしイエレン議長も先週末の講演で「緩和的金融政策を長期にわたって維持し過ぎた場合、恩恵以上に代償を伴う恐れがある」と発言しており、緩やかな利上げペースを続ける、という点で両者は一致しています。
一致していない点があるとすれば、「緩やかな」の具体的ペースのイメージでしょう。両者とも12月利上げでは一致していると思われ、一致していないとすれば来年の利上げ回数でしょう。9月FOMCでのドット・チャートで示された来年の利上げ予想回数の平均値は2回でした。イエレン議長が、基本的には2回だが場合によっては1回、フィッシャー副議長が、基本的には2回だが場合によっては3回、と考えている可能性はあるでしょう。
いずれにせよ、FFレートの現在の誘導目標は0.25-0.50%であり、12月利上げしても0.50-0.75%、更に来年1回利上げで0.75-1.00%、2回利上げで1.00-1.25%、3回利上げで1.25-1.50%ですから、過去の金利水準と比べれば、米国経済にとって来年中も十分に「緩和的金融政策」が継続されることになります。
日欧は出口の見えない超緩和金融政策を継続、新興国は利下げによる緩和拡大か、ブラジルのように通貨防衛のために超高金利政策継続です。緩やかとはいえ、金融政策を着実に正常化していく米国の通貨米ドルは、理論的には上昇基調が継続することになります。
ドル円ですが、1.今年に入って初めて75日移動平均線を明確に上回ってきたこと、2.シカゴ筋の円ロング・ポジションが大幅減少してきたこと、で足元状況変化が見られます。Brexit投票直後の99円割れで、安値を付けた可能性があると思います。しかしながら、まだ本腰を入れてドル買いをするべきではないと思います。今年何度か見られた「理論では説明できない円高進行」という市場反応が終息したのかどうかを見極めたいからです。「理論では説明できない円高進行」とは、今年2月以降、リスクオフで世界的に株下落した際に、他通貨に対してはドル高となるものの、円はドル以上に買われて、ドル円で見ると円高ドル安進行となったことを指します。株価下落が続く中で、対ドルで円高進行とならなくなったら、ドルの絶好の買い場といえるでしょう。