12月こそ利上げしたいイエレンFRB
来週月曜日発売の某経済週刊誌のコラムに寄稿した原稿案を御紹介します。(編集前の元原稿なので、著作権の問題はありません。)
9月21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、今回も利上げが見送られた。8月後半以降、利上げに対して前向きなFRB高官の発言が相次ぎ、イエレン議長自身も利上げに前向きな講演を行い、9月前半にも利上げに対して前向きなFRB高官の発言が相次いだことを考えると、FRBは9月利上げを市場に織り込ませようとしていたと考えられる。
ところが、9月に入ってから発表された主要経済指標の多くが予想を下回ったことで、市場は9月利上げは困難との織り込みを強めていった。当初の予定に反して、イエレン議長が利上げ見送りを決断したのは、ハト派と見られていたローゼングレン・ボストン連銀総裁が利上げに前向きな発言をし、米国株式市場が急落した9月9日だろう。週明けの12日には、イエレン議長と関係が近いといわれるブレイナードFRB理事が、利上げに慎重な講演を行い、市場の鎮静化を図った。
しかし、今回発表されたFOMCの内容からは、市場に12月利上げを織り込ませようという意図が強く感じられる。まず、ドット・チャートと呼ばれる、FRB高官全員の年末時点での金利予想分布図だ。2016年末までに利上げが1回も無いと予想する高官は17人中わずか3人しかいなかった。また、内容発表後の会見で、イエレン議長は「利上げを行なう論拠は強まったと判断している」と発言した。ハト派寄りとされるイエレン議長の発言としては、かなりタカ派的であり、事実上の利上げ事前予告と解釈できる。
投票内容にも注目したい。利上げを主張し反対票を投じたメンバーが10人中3人もいたことも異例だが、その3人のうちの一人がローゼングレン総裁であり、事前の発言通りにタカ派に転じたことで、投票者全体の勢力図に変化が生じたことは重要だ。10人中、ブレイナード理事とタルーロ理事の2人は筋金入りのハト派と思われるが、イエレン議長を除く残る4人は中立派であり、イエレン議長に歩調を合わせると思われる。つまり、イエレン議長の決断次第で投票結果は決まる。
これまでの言動から、イエレン議長は市場にサプライズを与えることを極端に嫌う性格だと思われる。市場が織り込む12月利上げの確立は、すでに50%を超えている。28日の下院公聴会でも12月利上げを匂わせたイエレン議長としては、市場の織り込みが更に進み、「市場の予想通り」に12月利上げを実行したいだろう。しかし、米国の主要経済指標が大きく悪化したり、新興国の経済減速や欧州金融問題などから市場混乱が起こったりすると、市場は利上げに対して否定的な織り込みを強め、その結果またしても利上げ見送りとせざるを得なくなる。
将来の利下げのノリシロを少しでも確保するために利上げできるうちにしておきたいイエレン議長としては、12月14日会合までの平穏無事を祈る気持ちだろう。(原稿案終わり)
今週に入っても、月曜日には9月FOMCで反対票を投じたメスター・クリーブランド連銀総裁が、講演で改めて利上げの必要性を主張、昨日はエバンス・シカゴ連銀総裁(現在投票権なし)が12月の利上げを見込む、と発言。さらにラッカー・リッチモンド連銀総裁(現在投票権なし)に至っては、「自分が投票権を持っていたら反対票を投じていた。現時点で適正なFFレートは1.5%だ。」と発言しました。12月利上げに向けての地ならしは着々と進行中です。