12月14日FOMCでの利上げはもはや確実に
昨日発表された11月2日FOMCの議事録によると、「労働市場が引き締まる中で、利上げの論拠は強まっている」「多くの参加者は、利上げが比較的早期に適切になると論じた」「一部の参加者からは、FRBへの信頼性を維持するために次回会合(12月14日)で利上げすべきだ、との議論があった」などと、完全に次回会合での利上げを示唆する内容でした。
議事録の発表を受けて、FF金利先物価格方逆算して算出される、市場が織り込む12月14日会合での利上げ確率は100%となりました。サプライズ嫌いのイエレン議長にとって、完璧な地ならしができた、ということになります。12月14日に「完全に市場の予想通りに、利上げ決定」とできるからです。このまま行けば、確実に12月14日に利上げ決定でしょう。「このまま行かない」場合、それは今後発表される米国経済指標の大幅悪化、ないしは金融市場の大混乱が必要ですが、12月14日までにそれらが起こる可能性はほぼ無いと思われます。
ドル高、株高、米国長期金利上昇、というここまでの流れが変化するのは、やはり利上げ決定後ということになるでしょう。トランプ新大統領の保護主義的貿易政策に加え、12月14日の利上げ決定を受けて、新興国経済懸念から中長期投資が株式の配分比率削減に動き、世界的に株式市場は大きく調整する、という従来の見方に変更はありません。ドル円は、株下落初期には、これまで同様に円高ドル安反応だと思いますが、ある程度のところからは株下落に対して下方硬直性が出てくると思います。
以下、理屈っぽい説明になります。その類の話がお好きでない方は、どうぞ御容赦ください。
株価は「1株当たり利益(EPS)」と「株価収益倍率(PER)」の積です。米国S&P500のEPSは、7-9月期こそ増益となりましたが、たった2%の増益でした。それまでは、2015年4-6月期以降5四半期連続の減益でした。TOPIXの今期予想EPSも、会社予想集計だと3.2%減と微減益、証券会社によっては微増益予想の会社もありますが、いずれにせよ「大幅増益」という局面ではありません。つまり、予想EPSに変化の無い中で、日米ともに株価上昇が続いています。それは株価上昇が、もっぱらPERの上昇によってもたらされている、ということを意味します。
一方、PERの逆数(1÷PER)である益利回りは、「リスクフリーレート(短期金利)」と「株式市場のリスクプレミアム(リスクと引き換えのリターンの上乗せ分)」の和とされています。米国での利上げは短期金利の上昇要因、米国長期金利上昇はリスクプレミアムの上昇要因(長期金利上昇を受けて、その分株式市場に対する要求リターンが上昇)ですので、どちらも益利回りの上昇(PERの低下)要因ということになります。
(なお、日欧は金利水準が低すぎてこの議論が成り立ちません。日欧株式市場のPER水準は、米国を基準にそれぞれの国のリスクの高さに応じて、応分のディスカウントがなされて決まっている、と考えるべきだと思います。例えば日本株のPERは、歴史的に見て米国株のPERよりも2倍程度ディスカウントされています。現在の米国株(S&P500)の予想PERは18.5倍、TOPIXの予想PERは16.3倍。ネットバブル崩壊以降の推移を歴史的に見ると、大幅増益でも大幅減益でもない平常時のPERのレンジは、米国株が16-18倍、日本株が14-16倍。)
上記を踏まえて米大統領選挙後の米国株上昇を説明するならば、次の3つのいずれか、ということになります。
1.現在起こっている米国長期金利上昇は、これまで低位に抑えられてきた期待インフレ率の上昇によるものであり、株式市場のリスクプレミアムの上昇要因どころか低下要因である。(PERの切りあがり正当化が背景)
2.トランプ新政権の政策により、来期以降のEPSが大幅に増加することが期待される。(将来の予想EPSの大幅拡大)
3.たまったカラ売りポジションの買戻しから始まったトランプ相場に、短期投資家が理屈抜きで買いから入る順張り回転売買をしている。(「上がるから買う、買うから上がる」というミニ・バブル状態)
1.の新理論には説得力がありませんし、2.は「漠然とした期待」としては理解できるものの、具体的な政策が出てこなければ定量化(数値化)はできないはずです。やはり3.の可能性が高そうなのですが、ミニ・バブル状態といえども一旦できてしまった流れが終了、そして転換するためには、時間ときっかけが必要です。機敏に動けることに自信がある方は、流れに乗って短期売買、そうでない方は現在の流れが少なくとも終了するまで、そして安全を期すならば、転換するまで静観がいいと思います。