日銀のストレステスト・レポート-日本株20%下落シナリオ
日銀は「金融システムレポート別冊-マクロ・ストレステストについて」を10月26日に発表しました。昨年版にもあった、日本株は55%下落、ドル円は80円になると予想する「リーマンショック級の経済危機が起こった場合」に加えて今年版では、日本株は20%程度下落、実質GDPは0.2%減になる(ドル円は現状程度)と予想する「ドル金利のタームプレミアムが拡大した場合」が示されました。タームプレミアムとは期間に伴う上乗せ金利であり、短期金利が低下しない限り、その拡大は長期金利上昇を意味します。
リーマンショック級の経済危機は極論だとしても、私はドル金利の上昇などによる日本株の20%下落は十分起こりえると考えています。11月2日発表の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明では「利上げ実施に向けて更にいくつかの証拠を待つ」と米大統領選などによる市場混乱が起こった場合の利上げ見送りの余地は残しつつも「利上げの論拠は引き続き強まっている」「インフレ率は幾分か上昇してきている」と、12月会合での利上げ決定に意欲を示しました。
米国での利上げは期待インフレ率を上昇させて、日銀レポートにもあるように米国長期金利の上昇が予想されることに加え、為替市場での米ドル上昇、特に対新興国通貨での米ドル上昇が予想されます。すなわち、新興国通貨の対米ドルでの下落です。新興国は自国通貨防衛を余儀なくされ、緩和的な金融政策や景気刺激的な財政政策を打つことが困難になり、新興国経済は一層減速するでしょう。それは新興国からの需要減速を意味し、原油をはじめ商品価格の下落要因となります。ここ半年間の市況回復により一息ついている産油国など資源国の経済状況は、再び苦境に立たされることになるでしょう。
経済状況が悪いとき、対応は「不要不急の支出を減らす」でしょう。企業でいえば設備更新を控える、すなわち設備投資を減らします。個人でいえば自動車や家電製品など耐久消費財の買い替えを控えます。関連企業にとっては売り上げ減少による業績悪化圧力となります。また、米国長期金利上昇は、ドル資金での運用需要を高め米国外でのドル不足に繋がり、ドル調達プレミアムが拡大し調達コストは金利上昇分以上に上昇するため、運用利ざやは縮小し金融機関の業績悪化圧力となります。当然、業績悪化は株価下落要因です。
最近発表された日本企業の中間決算は前年比20%を超える減益だったにもかかわらず、通期予想はまだ微減益にとどまり、依然として下期の業績急回復が予想されています。しかし急回復予想の論拠は見当たらず、下期も上期並みの減益になれば、上記シナリオでなくとも日本株20%下落の材料です。市場が日銀による買い支えを信じて日本株が高止まりしているうちに、さっさと退出して米ドルと米国長期金利の上昇に備えよ、が日銀のメッセージだと思えてしまいます。
日銀レポートはこれです。
https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsrb161026a.pdf