静かに売られ続けている中国元-中国の台所事情
昨日の米国財務省が発表した10月の対米証券投資動向によると、中国の米国債保有残高は10月末に1兆1,200億ドルと、前月比413億ドル減少しました。中国の米国債保有残高は、元の切り下げを行なった2015年8月以降減少傾向が続いていましたが、2016年7月から減少が加速しています。月間で413億ドルの減少は、2012年以降で最大の減少です。
この背景は、言うまでもなく過度な元の下落を制御するための元の買い支えです。対米ドルでの元の下落に歯止めをかけるために、米国債(米ドル)を売却して元を買う、いわゆるドル売り元買いの為替介入を恒常的に行なっているのです。米国債保有残高の減少が加速した7月から9月は、対ドルの元レートは6.70弱での安定水位となっていました。
ところが更に減少が拡大した10月には、元は6.79まで下落しています。買い支えきれないほど、元売り圧力が強まった、ということです。トランプ氏当選以降は、元下落は加速し、本日時点では6.95までの下落となっています。11月、12月も中国の米国債保有残高は、相当な金額の減少となっているでしょう。
元売り圧力の背景は、中国から海外への資本流出です。中国市場の魅力が低下したと感じる海外投資家が資金を引き上げているだけでなく、中国元は信用できないと感じている中国の富裕層が資金を海外に逃避させているのです。中国政府は、資金逃避に対する規制を強化していますが、それはかえって逆効果でしょう。
資本流出が元下落に繋がり、元下落自体が更なる資本逃避に繋がります。また、元下落は輸入インフレ上昇に繋がり、中国経済の下押し要因です。中国金融当局は、景気刺激策(緩和的な政策)を取りたくても、それはさらなる元下落要因ですので、元防衛とインフレ沈静化を優先して、引き締め的な金融政策を強いられます。それは中国経済の更なる下押し要因となり、資本流出を加速させます。まさに中国は、完全に悪循環にはまっているのです。
機械株を中心に多くの銘柄が、中国経済減速による業績懸念で株価下落しました。しかしトランプ相場の中、(業績懸念があるからこそ)株価が出遅れていたそれらの銘柄は「中国経済の悪化は止まり、円安進行も加わって来期は業績回復が見込める」と無理やり理屈をつけて買い上げられています。年内は無理かもしれませんが、年明けて「化けの皮」が剥げるのにそう時間はかからないでしょう。