日経ヴェリタス新春号の「相場アンケート」-回答の背景シナリオ説明
今年も日経ヴェリタス新春号のアンケートに参加させていただきました。主な回答内容ですが、日経平均は高値20,000円(1月)、安値9,000円(12月)、ドル円は高値145円(12月)、安値100円(2月)としました。一般読者は、多くの強気回答の中に私の予想数字だけを見て「またコイツは今年も奇をてらっている」としかお感じにならないでしょう。しかし会員の皆様には、この場を使ってシナリオ解説させていただきます。
1-3月;
トランプ氏当選以降の、米国株を先導役とする現在の先進国株式市場のいいとこ取りのユーフォリア(陶酔)状態は、早晩終了すると思われます。前回のコメントでご説明したように年明けすぐに終了ではないかもしれませんが、遅くとも1月中には終了が始まるでしょう。日経平均の高値20,000円は、年明け早々に勢いで20,000円トライする可能性は否定できない、という理由からです。新興国経済への悪影響など、トランプ政策には弊害もあることに加え、米国企業業績発表ではドル高のデメリットが顕在化します。また、本来は長期金利の上昇は、株式バリュエーションの押し下げ要因(予想EPSに変化がなければ株価下落要因)にもかかわらず、株式バリュエーションは上昇しており、いびつな状態であることは中長期投資家全員が認識しているでしょう。ひとたび下落が始まったら、多くの中長期投資家はリスク回避的な行動、すなわち株式を減らし債券を増やす、という行動に出るでしょう。
まず米国株が下落を始め、それに先進国全体が追従するという、いわゆるグローバル・シンクロの株下落が想定されます。日経平均の安値のめどは15,000-16,000円です。ドル円は、まだ株安円高という相関が残っていること、株下落により日米長期金利差が縮小が想定されること、およびシカゴ筋ポジションはすでに大きく円ショートに傾き、ポジション解消は円の買戻しであることを考えると、株下落に大きく円高ドル安に引っ張られると思います。ドル円の安値を2月としたのは上記が理由です。100円としたのは、おそらく目いっぱい行っても105円程度だと思われるが、短期的なオーバーシュートがそれ以上あることも否定できない、という理由からです。
3月16日の日銀決定会合への期待感や、3月末に向けてのもろもろの事情から、3月末にはやや戻る(17,000円程度か)ことを想定しています。
4-6月;
4月から5月に企業業績が発表されますが、2017年度の会社側業績見通しは、現在のコンセンサスの10%以上の増益と比べると相当慎重なものになるでしょう。回復を期待していた新興国経済活動が停滞あるいは更に悪化する可能性が高い、という見通しが織り込まれるという想定です。株式市場としては失望ということになり、再び株価は日経平均で15,000円程度まで下落するでしょう。ただし、その際には円ショートポジションがそれほど積みあがっていないことが想定され、ドル円はある程度は円高に引っ張られるものの1-3月の安値は更新しないでしょう。
株価下落と円高進行を受けて、安倍政権は財政出動による景気対策に出るでしょう。ただ、明確な財源はなく、実質的に赤字国債が財源となることが想定されます。(わかりにくくはするでしょうが。)同時期に、日銀が国債の買い入れ額を増加させてくるかもしれません。それらを受けて日本株、ドル円ともに一旦は反発するでしょう。高値めどは日経平均で16,000-17,000円程度でしょうか。
7-9月;
このころからトランプ政策が具体化、そして実行へと移され始めます。保護主義的貿易政策は、実務レベルでの相手国との調整に時間がかかることが想定されるため、優先して実行されるのは米国内で完結する、大型減税と財政出動でしょう。米国の財政悪化と期待インフレ率上昇から、米ドルは特に新興国通貨に対して一段と上昇し、新興国経済減速は深刻化していくでしょう。現在の米国では、長期金利上昇と株価上昇が両立していますが、この時期になるとドル高と新興国経済悪化が業績悪化に繋がるとの懸念から、教科書どおり、長期金利上昇は株価下落に繋がると思います。
米国株下落、円安ドル高進行、となるわけですが、日本株は米国株下落を優先して下落の反応をするでしょう。株価の最大の決定要因は将来の業績見通しであり、日本は米国よりも新興国経済減速の悪影響をはるかに大きく受けるからです。ドル円は125円まで円安進行だが、日経平均は13,000-14,000円までの下落を想定しています。
10-12月;
以下の現象は10-12月ではなく、2018年1-3月以降かもしれません。
「日本政府が赤字国債を財源に大規模財政出動しても、日銀が大量の国債を買い続けて利回り曲線低位固定化を図っても、日銀が最大の買い手として大量の日本株(ETF)を買い続けても、日本経済は上向かず、為替が円安進行してもそれ以上の悪影響が新興国から及び、企業業績懸念が大きくなっている。」こんな光景を見て、外人投資家はどう思うでしょうか?「日本は債券も株も中央銀行が買い支える、ゆがんだ官製市場だ。だいたい、金融緩和といまだに言われているが、財政が大幅赤字で国債発行に依存しなければ財政が回らず、その国債を買っているのは日銀、という構図は財政ファイナンスに他ならず、円の通貨としての信認がどこまで続くか疑問だ。」と、いつ評価を変えてもおかしくないでしょう。黒田総裁の任期も2018年3月であり、後任人事や次期総裁の政策不透明感も不安を煽る材料になるかもしれません。
そうなってしまうと、外人投資家が行うことは「円資産売却」以外にありません。外人投資家が保有する円資産は、日本の株と不動産です。特に、市場流動性がある株は真っ先に売却対象となるでしょう。日本から海外への資金流出も加速し、円安進行にも拍車がかかるでしょう。この現象が始まり、加速していく過程の数値が、12月の日経平均9,000円、ドル円145円です。
今年もお付き合いいただきまして、大変ありがとうございました。来年も周囲の意見にとらわれない、客観的な視点と論理的思考で、少しでも皆様のお役に立つような情報発信を心がけますので、引き続きよろしくお願いします。
では、良いお年をお迎えください。
ミョウジョウ・アセット・マネジメント株式会社
代表取締役 菊池 真