円高進行は日米実質金利差の縮小が背景?
円高がここに来て更に進行しています。メディアを見る限り、もはや円安継続論者は少数派となり、ドル円トレンドの円高反転論者が多数派となってきました。直近の値動きが継続する、という理屈のない円高論者が多い印象ですが、円高進行の理屈として、日米の実質金利差の縮小が背景だとする説明を複数目にしますので、今回それは理屈として本当に正しいのか、を考えて見ます。
まず、実質金利とは何かというと、「名目金利-期待インフレ率」で計算されます。為替レートを予想する債に通常使われるのは、2年国債の利回りです。日米ともに名目金利は低下し、日本ではマイナス金利が定着しています。日米の名目金利差は、円高進行が始まった2月初め以来ほとんど変化していません。つまり、米国では期待インフレ率が上昇しているのに対し、日本では期待インフレ率が低下している、ということが、日米実質金利を縮小させているということになります。
日本、米国ともに、貿易赤字国、すなわち資源輸入国です。したがって、原油をはじめとする資源価格の上昇、下落は両国の期待インフレ率の変動要因になります。加えて、資源価格はドル建てで決められますので、日本の場合は輸入する際の円金額はドル円レートが来たいインフレ率の変動要因となります。
米国では、資源価格の反転の他、堅調な労働市場がもたらす賃金上昇基調の継続が、最近の期待インフレ率の上昇要因です。一方日本では、資源価格反転は期待インフレ率の上昇要因であるものの、それを補って余りある円高ドル安進行が期待インフレ率の押し下げ要因となっています。
ここまでお読みいただくと、鋭い方は「日米実質金利差縮小が円高ドル安進行の背景」という説明に違和感を覚えることでしょう。因果関係が逆なのです。「円高ドル安が進行したから日米実質金利差が縮小した」のであり、「日米実質金利差が縮小したから、円高ドル安が進行した」のではないのです。「日本の期待インフレ率の低下」という、原因とされる要素の最大の変動要因が、結果とされる「円高ドル安進行」だという構図は、エクセルの循環式状態だといえ、正しい理屈ではない、という結論になります。
しかし実際に、私はまったく想定していなかった110円を越えての円高ドル安進行となっています。この水準での円高ドル安進行は、もはやドルロング&円ショート・ポジションの投げではないでしょう。シカゴ筋ポジションで円ロング・ポジションが高水準で高止まりしていることから考えても、ドルショート&円ロング・ポジションの積み増しないしは順回転が背景でしょう。「理屈抜きの値動き追従」が、円高ドル安進行の背景だということです。理屈とは違う方向に動いているわけですから、いずれ流れは理屈どおりの方向に戻りますが、理屈とは違う方向とはいえ、これだけの値幅と期間で続いている流れを変えるには、誰の目にもわかりやすい「きっかけ」が必要です。為替介入はその「きっかけ」にはなりえず、スピード調整要因に過ぎません。「きっかけ」の候補は、日米中央銀行の政策変更、日本の大規模な財政出動があげられますが、政策変更があるとしても4月27日、28日、財政出動は伊勢志摩サミットに合わせて発表となれば5月下旬です。円安ドル高進行派は、もうしばらく防戦を強いられそうです。