サミットでの安倍首相提言を深読み
伊勢志摩サミットで、議長国である日本の安倍首相は「現在、リーマンショック並みの経済危機が迫っている。危機を回避するために、主要各国は協調して財政出動すべきだ」と提言し、各国の合意を求めました。しかし「経済危機が迫っていると言うほどの状況ではない」「財政出動は各国独自の判断で行なうべきだ」とされ、阿部首相の提言通りの合意は得られませんでした。
その後の報道では、以前から安倍首相は「リーマンショック並みの経済危機か東日本大震災並みの災害がない限り、消費増税は断行する」と発言していることを踏まえ、「安倍首相はG7の場で、現在はリーマンショック並みの経済危機を迎える可能性があるとの合意を取り付け、したがって消費増税できる状況ではない、との結論を導きたかった。」という見方が支配的でした。
「政局」と言う切り口で見ると、確かにその通りなのでしょう。しかし純粋に「主要各国が抱える経済的リスク」という切り口で考えると今回の安部提言は、単に政局運営だけを念頭に置いた誇張発言だった、と切り捨てられなくなります。そのキーワードは「中国経済減速から受ける悪影響の度合い」です。日本はその度合いが、他の主要国に比べて突出して高いのです。
データを見てみましょう。2015年の主要7カ国それぞれの、輸出全体に占める中国向け比率です。米国は7.7%、ドイツ、英国がともに6.0%、フランス、カナダがともに3.9%、イタリアが2.5%だったのに対し、日本は17.5%もありました。つまり日本が受ける中国経済減速の悪影響の度合いは、米国の2.3倍、独英の3倍近く、仏加の4.5倍にも上るのです。
米国にとっては、中国経済減速からの悪影響の度合いは日本に次ぐものの、米国経済自体が堅調であり、現状が「経済危機が迫っている」というほどの認識はなく、また欧州にとっては、欧州経済自体は低迷が続いているが、悪化が続いているという状況ではなく、中国経済減速からの悪影響は小さいため、やはり「経済危機が迫っている」というほどの認識はないのでしょう。
しかし日本の状況は違います。ご存知の通り、日本の国内景気は低迷が続いており、さらに減速するリスクも少なくありません。加えて、中国経済減速から受ける悪影響の度合いは、主要各国の中で突出して高いことから、日本にとっては現状が「リーマンショック並みの経済危機が迫っている」と表現するのは、あながち誇張表現とはいえないでしょう。
安部政権としては「各国独自の判断」とされた財政出動を行い、野党の提案に乗る形で消費増税延期を決定し、状況次第で日銀に追加緩和を迫る、という政治運営を強いられるでしょう。しかし、主要各国の合意が得られなかった以上、どこで「日本の政策はモラルハザードだ」という批判が海外からなされるかわからない、というリスクをはらんでいます。