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2016年6月9日のマーケット・コメント

三菱東京UFJ銀行の決断の衝撃

 

メガバンク最大手行である三菱東京UFJ銀行が、日本国債のプライマリーディーラー(引受業者)の資格を返上すると報じられました。つまり、新発日本国債の入札に今後参加しない、ということです。日本国債の利回りは10年物まではマイナス金利、30年物ですらわずか0.3%という超低金利です。そのため、将来の金利上昇によるリスクが高いとの判断に違和感はなく、この「資格返上」という動きが他行にも広がる可能性は低くないでしょう。将来のリスクを論じるまでもなく、そもそも預金金利はマイナスではないため、マイナス金利の国債を保有するということは、逆ザヤを固定することになり、銀行にとってマイナス金利の国債を保有する理由はないのです。

 

系列の証券子会社は、投資家への転売業務のために資格を維持する、ということですが、マイナス金利の国債を投資家が買う理由は「金利のマイナス幅が更に拡大(国債価格が更に上昇)したときに売却益を得るため」ないしは「資金を他の投資先に向けたらもっと大きな損失に繋がるため」しか考えられません。それらの状況が変化すれば、投資家からの需要はなくなり、証券各社も資格返上に動く可能性が出てきます。引受業者には一定額以上を入札する義務があり、返上業者が増えるほど残存業者の入札必要額が増え負担増となるため、資格返上の動きは加速することが想定されるでしょう。

 

しかし、それは日銀にとっては大きな問題です。マイナス金利の幅が拡大すれば、引き受けに伴う負担は増加し資格返上の動きが広がる可能性が高まってしまうため、マイナス金利拡大という政策変更が事実上困難になったことに留まりません。現在、日銀は年間80兆円の国債買い入れという手法で量的金融緩和を行なっています。現行法では日銀が直接国債を引き受けることは禁じられているため、新発国債を買い入れる場合は引受業者に入札してもらい、それを日銀が買うという方法で行なわれています。したがって、極論ではありますが、もし引受業者がいなくなってしまったら、日銀は現在の方法での国債買い入れができなくなります。

 

現在の国債依存型の予算運営が続くとすれば、シナリオは2つしかないでしょう。一つは、法改正により日銀の直接引き受けを可能にすることです。しかし「それは完全な財政ファイナンスだ」という批判を受けるリスクが高く、円の大幅下落に繋がります。もう一つは、一般の投資家が買いたいと思える水準まで国債の利回りが上昇(価格が下落)することです。しかしそれは国債保有者に評価損を発生させるだけでなく、政府の国債利払い費用を増加させ、財政状態悪化を加速させます。

 

どちらにせよ、恐怖シナリオです。ギリシャなど、財政赤字が問題になった国がこれまで例外なく避けて通れなかったのが、大幅な歳出削減です。現政権は、消費増税は再び先送りにし、秋には大型財政出動を行うそうです。恐怖シナリオが実現してしまう前に、歳出削減に本格的に取り組まなければ、それこそ取り返しが付かない事態に発展してしまいます。