FRBは利上げに向けて一致団結
8月26日、米国ワイオミング州ジャクソンホールでの講演で、イエレンFRB議長は「米国経済は、完全雇用及び物価安定という金融当局の目標に近づきつつある」「金利引き上げの論拠は、この数か月で強まったと考えられる」と、早期利上げに前向きな姿勢を示しました。
この、利上げに前向きな講演内容の伏線は多数ありました。講演に先立ち、ダドリー・ニューヨーク連銀総裁、フィッシャーFRB副議長など、FOMC(連邦公開市場委員会)で現在投票権を持つ要人から、早期利上げに前向きな発言があり、さらに、講演の前日にもジョージ・カンザスシティー連銀総裁、カプラン・ダラス連銀総裁からも、利上げに前向きであるという発言がありました。極めつけの発言は、講演の後のメディアとのインタビューで、フィッシャーFRB副議長が「9月(21日のFOMCでの)利上げもあり得るということだ」というものでした。講演をどう解釈するか迷っていた市場は、この発言を受けて米国株下落、米ドル全面高という反応になりました。
6月の英国EU離脱投票に向けた不透明感から、6月15日のFOMCで利上げを見送って以来、市場では「年内に利上げはない」という楽観ムードが支配的となり、市場では債券高、株高、商品市況高、新興国通貨高という、いわゆる「リスク・オン」の反応が続いてきました。FRBは、市場が今後の金融政策を決めつけることを嫌います。市場の決めつけがFRBの行動の制約要因になりかねないからです。イエレン議長の講演を中心とする、今回のFRB要人の一連の発言は、FRB内部の意見にばらつきがないことをアピールしながら、「年内に利上げはない」との市場の決めつけを否定し、「状況次第でどちらもありえる」という中立的なものに戻そうという意図なのでしょう。
それだけではありません。インフレ圧力がさほど高くはない中で利上げに前向きな姿勢を示したことで「できることなら利上げをしておきたい」というFRBの本音が感じ取れます。最近のFOMC議事録で明らかですが、FRBが将来のリスク要因として最も警戒しているのは、米国経済自体ではなく「米国以外の金融市場や経済が大幅に悪化し、それが米国にも悪影響を与えること」です。その際には、FRBも金融緩和方向の政策変更を行い、米国経済の浮揚を図らなければならなくなるかもしれません。その時に、中央銀行がバランスシート・リスクを取る非伝統的手法である国債買い入れ(QE4)を避け、伝統的手法である「利下げ」での対応が可能になるよう、あらかじめ利下げの余地をできるだけ確保するために、問題のないうちに利上げをしておく、ということでしょう。
日欧は出口の見えない量的緩和継続の中、米国はすでに量的緩和をやめ、利上げも1度行い、金融政策の正常化を果たせています。また、米国の早期利上げは、新興国通貨下落、商品市況下落に繋がり、新興国景気の更なる悪化を招くことも承知の上でしょう。この絶対優位な地位を更に高めていこうとする、冷酷なまでの貪欲さこそが米国を世界最強の国にし、今後も強さをさらに増す要因なのでしょう。
円安ドル高進行を受けて、本日の日本株は景気敏感業種主導で大幅上昇となっています。しかし、「米国利上げ」→「新興国通貨下落、商品市況下落」→「新興国経済の更なる悪化」に加え、トヨタなどの自動車完成車メーカーを除くと円安による収益押し上げ効果は限定的であることを考えると、いずれ、現在コンセンサスになっている「下期の業績大幅回復シナリオ」に懸念が出てくるでしょう。また、米国利上げを織り込めば、米国株は下落基調入りする可能性が高いでしょう。それは世界的な株式市場の押し下げへと繋がり、株安は再び円高(ドル安ではなく)を招く可能性が高いと思います。
ドル円のトレンド転換、大幅な円安ドル高進行開始は、日銀の量の拡大(国債買い入れ額の増額)を待つ必要があり、日本株は2月以降のボックスレンジ(上限は日経平均で17,000円程度)の上限近くにあり、ボックス上抜けは無い、という見方を維持します。