火には油ではなく水をかけたブレイナード理事-意図は?
世界中が注目していたであろう、昨日シカゴでのブレイナードFRB理事の講演内容は「雇用やインフレの行き過ぎに対処する必要性は現時点では乏しく、利上げを急ぐ理由は無い」という、9月利上げに対しては否定的なものでした。その講演内容を受けて、米国株、米国長期債ともに反発しました。しかし、どちらも先週金曜日の下落分を埋めるには至りませんでした。
今日から21日のFOMCまで、FRB関係者からの発言はなくなります。昨日のブレイナード講演が最後の発言だったわけですが、8月後半から利上げに前向きな発言が相次ぎ、ついに先週金曜日に市場が大きく反応し、ブレイナード講演で火消しをして発言終了、となったわけですが、もしFRBの意図が「9月利上げなし」の市場コンセンサスを形成したい、ということであれば不自然な流れです。そこで昨日の講演内容の意図を深読みしてみます。
1.FRBの意図は「FOMCまでの市場混乱を回避」
8月後半から先週金曜日までは、明らかに利上げに前向きな発言が多く、「9月利上げ」の市場コンセンサスを形成したい、と思っていたと考えるのが自然でしょう。しかし、先週金曜日に米国株、米国長期債ともに急落してしまいました。もし昨日の講演内容が利上げに前向きなものだったら、米国株、米国長期債ともに昨日は更なる急落となり、21日のFOMCに向けて市場が大混乱する可能性が高かったでしょう。そうなったら21日に利上げを見送らざるを得ない結果となり、「FRBは市場との対話を失敗した」「市場混乱で利上げができなくなった」とFRBに対する信任を大きく損なうことになっていたでしょう。
そこで、「とりあえず火には油ではなく水をかけ、市場を落ち着かせて、サプライズになるのは致し方ないが、8月後半から作ってきた流れどおりに、9月利上げを行なう」との意図をFRBが持っている可能性はあるでしょう。
2.ブレイナード理事は次回FOMCでの「利上げ慎重派」の勢力拡大を意図
ブレイナード理事は筋金入りのハト派です。3月や6月のFOMCの前にも、早期利上げに慎重な姿勢を表明しました。FOMCで投票権を持つのは10人で、6人が常任メンバー、4人がニューヨーク以外の地区連銀各総裁の1年ごとの持ち回りです。今年投票権を持つ4人の地区連銀総裁は、タカ派とされる、ブラード・セントルイス連銀総裁、ジョージ・カンザスシティ連銀総裁、メスター・クリーブランド連銀総裁と、ハト派とされていたローゼングレン・ボストン連銀総裁です。先週金曜日の米国市場急落のきっかけとなったのが、ハト派のはずのローゼングレン総裁の利上げに前向きと取れる発言でした。もしローゼングレン総裁が9月利上げを支持した場合、4人の地区連銀総裁メンバー全員が9月利上げ支持と予想されます。
6人の常任メンバーのうち、ブレイナード理事自身のほかに、間違いなくハト派であり、9月利上げを支持しないと予想されるのはタルーロ理事だけです。中立派と見られているフィッシャー副議長、ハト派と見られているダドリー・ニューヨーク連銀総裁からは、8月後半以降に利上げに前向きな発言を行なっています。もしこの2人が9月利上げを支持した場合、支持6票となり利上げ決定となります。
そこで、ローゼングレン総裁の利上げに前向きと取れる発言をきっかけとする金曜日の米国市場急落の後に、利上げに慎重だという自身の主張で市場が落ち着いた、とアピールすることにより、タカ派に寝返りそうなハト派や中立派のメンバーの考えを変えさせたい、とブレイナード理事が意図した可能性はあります。つまり、FRBあるいはFOMCメンバー内で、一致団結した見方が形成されておらず、内部で勢力争いしている、ということです。
上記2つの可能性のうち、私は1.を予想します。債券王ビル・グロース氏が言うように、米国市場では株価は最高値圏での推移、長期金利は安定推移、米国以外の地域や国々の問題も小康状態という環境で、しかも8月半ばから地ならししてきた「9月利上げ」を行なわない理由が見当たらないからです。問題は「サプライズ嫌い」のイエレン議長が、FRB関係者が発言できない中で、どのような手法でどの程度サプライズの軽減を図ってくるのか、です。「サプライズ致し方なし」とするのか、なんらかの「ひねり技」を繰り出してくるのか、今後1週間注目です。