2つのニュースが示唆する、現在の米国株式市場の状況
昨日から今日にかけて、ブルームバーグ・ニュースに掲載された以下の2つのニュースが目を引きました。
1.「米大統領選挙後、昨年末にかけて、株式ロング・ショート戦略のヘッジファンドのグロス・エクスポージャーが約5%減少し、ネット・エクスポージャーは5%増加し30%となった」
2.「ジョージ・ソロス氏が米大統領選に向けて米国株カラ売りポジションを構築、トランプ氏勝利を受けてポジションを更に積み増したが、米国株上昇で10億ドルの損失を出し、年末までにポジションをすべてクローズした」
用語の説明ですが、「グロス・エクスポージャー」=「ロング(買い持ち)・ポジション」+「ショート(カラ売り)・ポジション」、「ネット・エクスポージャー」=「ロング・ポジション」-「ショート・ポジション」です。つまり、1.のニュースの意味するところは、株式ロング・ショート・ファンドは、全体としてショート・ポジションを減らした(カラ売りを買い戻した)ということです。上記の30%はクレディ・スイスの集計だそうですが、私が先日見たモルガン・スタンレーの集計では、内容は同様でしたがネット・エクスポージャーは39%でした。いずれにせよ、ネット・エクスポージャーは通常15-20%程度の水準ですので、年末時点では相当な高水準(相当な上昇ベット)となっています。
上記2つのニュースが示唆することは、「米大統領戦後の米国株上昇は、カラ売りの買戻しが主導し、その結果、年末時点では相当な強気ポジションとなった。カラ売りポジションの残高は相当減少し、それは「買い戻し」という将来の潜在的買い需要の減少を意味する。」ということです。そのような場合、上値は重く、もし相場が大きく変動するとすれば、多数派がベットする方向(上昇)とは逆(下落)に行きます。
もし米国株が下落した場合、強気ポジションを取っているファンドのリターンはマイナスになります。そのような状況では損失拡大の回避を迫られ、ファンド運用者はリスク水準を落とさざるを得なくなります。現在の状況で言えば、ロング・ポジションを減らす(買い持ち株を売却する)ことにより、グロス・エクスポージャー、ネット・エクスポージャー両方を低下させる、という行動になります。
結論として、
1.現在の米国株は、上値は重く下落しやすい状況である。
2.下落した場合、下落を受けて買い持ちの削減が必要になるポジション状況である。すなわち、ひとたび明確な下落が始まると下落が加速しやすい状況にある。
昨日は、米国株は崩れかかったものの、エバンス・シカゴ連銀総裁のタカ派発言を受けて、株下落、ドル下落、債券上昇というそれまでの流れが反転し、小幅なマイナスで終わりましたが、いつでも要人発言で切り返すとは限らず、上記のような状況であることを示した、ともいえるでしょう。また昨日の動きで、「株下落」「円高ドル安進行」「米国長期金利低下」という相関が確認されました。ドル円はチャート上の最初の下値フシの115円を明確に割り込んできました。株が高値でもみ合っている間には、再び115円を超えていく可能性はありますが、米国株主導で世界的に株下落する際には、ドル円は少なくとも次の下値フシの110円トライまでの下落は想定されます。