利上げだけではない米国の金融引き締め要因
市場では、米国連邦準備制度委員会(FRB)が、今年何回の利上げを行なうか、それはいつの会合で行なわれるかに注目が集まり、FRB高官の発言や重要経済指標でそれを予想しようとしています。イエレンFRB議長は、2月14日の米上院銀行委員会の公聴会で「利上げに当たって新政権の財政刺激策の計画を待つ必要はなく、経済見通しは利上げを支持している」と述べ、FRBは今年複数回の利上げに前向きな姿勢であり、引き締め方向の金融政策変更が妥当だと考えていることがあらためて確認されました。
市場ではまだ注目度は高くありませんが、利上げ以外にもFRBが取り得る引き締め方向の金融政策変更があります。それはFRBのバランスシート縮小の開始です。3度にわたる量的金融緩和(QE)により、FRBのバランスシートはQE以前の1兆ドル弱から4.5兆ドル(米国債2.5兆ドルと住宅ローン担保債券2兆ドル)へと拡大した。QEはすでに終了しているので、これ以上バランスシートが拡大することはないですが、現在は満期償還分を再投資しているため、バランスシートは縮小していません。
巨大なバランスシートを維持することは、金利上昇により含み損が発生するなどFRBにとって大きなリスクです。実際に、今年になってから数名のFRB高官が、バランスシート縮小開始に対して積極的な発言を行なっています。中でも、連邦公開市場委員会(FOMC)で今年投票権を持つエバンズ・シカゴ連銀総裁の「バランスシートの静止点(縮小の終了)は1.5兆ドルだろう」との発言が注目されます。3兆ドルの縮小余地がある、ということです。
バランスシートの規模変化と金利の関係については、2011年に当時のバーナンキFRB議長は「2,000億ドルの資産購入は0.25%の利下げに相当」と発言しています。もし逆も真なりであれば「2,000億ドルのバランスシート縮小は0.25%の利上げに相当」です。FRBが保有する債券は、2017年に約2,000億ドル、2018年に約3,700億ドル、2019年に約3,300億ドルの償還を迎えます。もし償還分の再投資を中止したら、利上げに加えて2017年には利上げ1回分、2018年には2回分の追加的金融引き締め効果となります。
金利上昇は住宅ローン金利や企業への融資金利の上昇につながるため、上昇速度が速すぎると景気の腰を折る恐れがあります。FRBは、2013年にQE3縮小の示唆を受け、長期金利が急上昇、QE3縮小を延期せざるを得なくなった苦い経験があり、長期金利の急上昇はなんとしても避けたいはずです。イエレン議長は上述の公聴会で「バランスシート縮小は、緩やかなペースで秩序を持って行なう」と発言しています。QE3を段階的に縮小させ終了した時と同様、償還分の再投資も段階的に縮小させていくつもりであることが伺えます。
しかし、引き締めすぎても過度な金利上昇、引き締めの手を緩めすぎてもインフレ懸念上昇から過度な金利上昇、とFRBに求められるのは「針の穴を通す」制御です。容易ではないでしょう。