FOMC議事録発表を受けた昨日NY市場の反応
昨日米国で、まずADP雇用統計が発表され、予想以上に強い内容だったことで、ドル上昇、株上昇、債券下落(金利上昇)となりました。経済好調=利上げが着実に行なわれる、ということで、この反応は「教科書通り」でした。ところが、その後発表された3月15日のFOMC議事録を受けて、急激にドル下落、株下落、債券上昇となりました。ADP雇用統計を受けた市場反応と間逆になったわけですが、議事録の内容を考えると、この反応は「不思議」です。
議事録の内容の中で、FOMC声明文に盛り込まれていなかった内容は、1.大部分のFOMC参加者が、年内にFRBのバランスシート縮小(保有債券の償還分の一部ないしは全部の再投資を行なわないようにすること)を開始することに同意した、2.米国株式は、バリュエーションから見て割高だ、とする参加者がいた、という2点です。そのうち2.は以前から多数の市場関係者が指摘していることであり、市場にとっていまさらサプライズ要因になったとは考えにくいので、1.の内容が新規材料視された、と考えるのが自然でしょう。
2月21日のコメントでご説明したとおり、FRBのバランスシート縮小は、利上げとは別の金融引き締め要因です。金融引き締めの加速を懸念して、米国株が下落したのは理屈どおりです。しかし、不思議なのは債券が上昇(金利低下)したことです。ドル下落はその結果です。金融引き締め加速を懸念したのであれば、債券にとっては下落(金利上昇)要因のはずであり、償還分の再投資を減額することも、債券市場の需給悪化要因すなわち債券にとっては下落(金利上昇)要因のはずです。
その点を考慮すると昨日の反応は、米国株急落を受けて「リスクオフ」の動きが広がり債券が買われ、金利低下を受けてドルが売られた、ということだと思われます。今後のシナリオとしては以下の2つが考えられます。1.米国株下落主導の「リスクオフ」の動きが継続し、債券上昇(金利低下)、ドル下落となる。2.債券市場があらためてFRBバランスシート縮小を懸念し、米国株下落が収束する中で債券下落(金利上昇)、ドル上昇となる。
まだトランプ政権の経済政策の全容はおろか片鱗さえ具体化されていないこと、来週再来週は米国議会は休会で何の進展もありえないこと、1-3月期企業業績発表が本格化するのは再来週であること、原油などの資源価格は高止まりしており期待インフレ率が低下するとは思えないこと、などを考えると、米国株下落が主導する1.のシナリオは、「まだ」(いずれはその展開を予想しますが)考えにくいことから、2.のシナリオを当面のメイン・シナリオとします。1.のシナリオの実現は、「トランプ政権が掲げる政策の実現が無理で、すべてがスケールダウンしそうだ、と市場が気付いた時から」でしょう。