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2017年5月9日のマーケット・コメント

トランプ政策への市場の信頼感低下を示すBEI

4月13日付コメントで触れたBEI率に、今回改めて注目したいと思います。

米国10年BEI20170509

3月決算企業の昨年度業績と今期の業績見通しの発表の際に、各社から今年度のドル円などの前提レートが示され、今年度の業績を占う上でドル円相場の動向にあらためて注目が集まっています。為替レートの変動要因は、金利差変化、通貨供給量の差、国際収支の差など、時期によって変化してきました。ドル円で見て21世紀を振り返ると、リーマンショックまでは日米短期金利(2年国債利回り)差変化がもっとも強い決定要因でしたが、米国が量的緩和(QE)を開始した以降は、日米の通貨供給量の差が最も強い決定要因となりました。さらに日銀がマイナス金利政策を導入した2016年1月末以降は、日米長期金利(10年国債利回り)差変化が最も強い決定要因となり現在に至ります。

 

日本では10年国債利回りは日銀の金利操作政策により「0%程度」に固定されているため、日米長期金利差変化はもっぱら米国長期金利の変動によりもたらされます。「金利=期待インフレ率+実質金利」であり、実質金利を物価連動債の利回りとみなして期待インフレ率を逆算して算出されるのが、ブレーク・イーブン・インフレ(BEI)率です。すなわち「BEI率=金利-物価連動債利回り」です。市場の期待インフレ率を表すBEI率は、リフレ政策を掲げるトランプ政策に対する市場の信頼感指数と言えるでしょう。

 

トランプ大統領当選直後、大型減税や財政出動によるインフレ上昇期待から米国10年国債利回りは1%台から2%台へ急上昇しました。過去半年間の推移を見ると、利回りはピークアウトから金利低下した局面が2度あります。12月半ばの2.6%でのピーク後と3月半ばの2.6%でのピーク後です。ただBEI率の変化と合わせて見ると、金利低下の要因がまったく異なることが浮き彫りになります。12月半ばからの金利低下局面ではBEI率は上昇していたのに対し、3月半ばからの金利低下局面ではBEI率は急低下していたのです。つまり、12月半ばからの金利低下はトランプ政策への期待の高まり以上に、FRBの引き締め加速に対する警戒感が緩和されたことが背景だったのに対し、3月半ばからの金利低下は、予算教書発表先送りやオバマケア代替法案採決断念などによる、トランプ政権に対する市場の信頼感低下が背景にあったことがわかります。

 

北朝鮮問題や仏大統領選挙といったリスク要因が払拭され、米国10年債利回りが上昇に転じてからも、BEI率は実勢インフレ率を下回る水準で推移しています。大幅に円安ドル高が進み、今年度企業業績に対する期待感が膨らみ株価動向にも楽観論が広がるためには、米国10年国債利回りの本格的上昇が必要ですが、市場がトランプ政権に疑念を抱きBEI率が低迷している限りそれは望めそうにありません。

 

財源確保や議会調整が難航し、トランプ政権は公約通りの政策実行が困難だと思われます。いずれ市場の疑念が失望に変わり、BEI率が一段と低下する形で米国長期金利低下、円高ドル安進行、株式市場下落、となる覚悟が必要でしょう。