目標インフレ率は日米欧ともに2%が適切なのか?
7月20日の日銀金融政策決定会合でまたしても、インフレ見通しは下方修正され、目標とするインフレ率2%の達成見通し時期は先送りされました。先送りは6度目です。同日、欧州中央銀行(ECB)の政策委員会会合で、柔軟な政策対応で引き続き目標インフレ率達成を目指すとし、テーパリング(債券買い入れ額の減額)開始時期の示唆は避けました。ECBが目標とするインフレ率も2%です。また、米国の連邦準備制度理事会(FRB)が目標とするインフレ率も2%です。つまり日米欧ともに中央銀行が目標とするインフレ率は2%で横並びですが、これはそもそも適切なのでしょうか。
中期的に安定維持可能なインフレ率の水準に関しては様々な議論が存在しますが、その一つに中期的な経済成長率に相関するという考え方があります。維持可能なインフレ水準が経済活況度の程度に影響されるということであり、違和感はありません。中期的な経済成長率は潜在成長率と同意であり、それは生産年齢(15歳から64歳)人口、資本ストック、生産性の3要素の増減で決まります。
まず、日本が欧米に比べ圧倒的に不利な要素が、生産年齢人口の動向です。国連人口推計によると、米国は現時点で年率0.5%程度の増加で、今後は増加率の緩やかな減少が予想されるものの人口減少には至りません。欧州圏は現時点でほぼ変わらずで、今後はわずかな減少に転じる見込みです。それらに対し日本は、現時点で年率1%程度の減少で、今後も1%程度の減少が続くと予想されます。
その人口動態を含め、経済産業省が「通商白書2016」で、日米独の潜在成長率を推計しています。「結果には相当の幅を持って見る必要がある」とされてはいますが、2006年から2012年の推計で、米国は1.9%、独国は1.1%、日本は0.4%という結果が示されています。人口動態は変化しない要素ですので、潜在成長率を高めるには生産性を高めるしか方法はないのですが、同期間の生産性の寄与率は、米国が1.1%、独国は0.5%、日本は0.8%と推計されており、日本の生産性寄与度は低くはありません。製造業依存度が高いという日本の経済構造を考えると、生産性寄与度を更に高めるのは容易ではないでしょう。
潜在成長率が1.9%である米国が、インフレ目標を2%にするのは妥当でしょう。米10年国債利回りも2%台での推移となっており、市場も2%のインフレ目標は現実的だと考えている証左です。しかし潜在成長率が1.1%の欧州がインフレ目標を2%とするのは、独仏10年国債利回りの1%割れでの推移が示す通り、市場はやや無理があると考えているのではないでしょうか。ましてや潜在成長率0.4%の日本がインフレ目標を2%とするのは、無理を通り越して荒唐無稽にすら感じます。現に、市場が織り込む日本の期待インフレ率は0.4-0.5%程度です。日銀は、高すぎる目標を掲げながら達成見通し時期の先送りを繰り返す、という状況を一体いつまで続けるつもりなのでしょうか。
「通商白書2016」