株下落でも円高にならなくなった背景の考察
以前の円安株高、円高株安という株とドル円の相関が、ほぼまったく消失しています。特にそれが鮮明になったのは10月以降で、株が大幅下落下局面でもまったく円高進行しなくなりました。昨日も同様です。株が大幅下落といういわゆる「リスクオフ」の局面では、避難通貨として円が買われる、と長らく言われてきましたが、ここに来て市場反応に変化が見られる背景を考えたいと思います。
市場反応に変化をもたらした最大の要因は、米国長期金利の高止まりにあるのではないかと思われます。米国10年国債利回りは8月24日の2.81%(物価連動債利回り0.71%、BEI率2.10%)から10月5日の3.24%(物価連動債利回り1.06%、BEI率2.18%)までほぼ一貫して上昇し、その後はおおむね3.10%-3.24%の狭いレンジでのもみ合いとなっています。もみ合っている間に、原油価格の下落などからBEI率は2.03%まで低下、物価連動債利回りは昨日時点で1.12%まで上昇しています。つまり、利回りは高止まっているが期待インフレ率はむしろ低下している状況です。
国家財政が問題視されていない国で、10年国債利回りが3%を越える水準なのは米国しかありません。また政策金利(短期金利)が2%を越える水準の国も米国しかありません。信用リスクを取らない(国家財政が問題視されている国の債券を投資対象としない)債券運用において、「金利水準」という点で米国国債は圧倒的に魅力的です。ただ、「金利水準」が魅力的でも「金利上昇(債券下落)」が継続するようなら、価格下落のリスクが高まります。
しかし、上記の通り8月24日から始まった長期金利上昇は、期待インフレ率の上昇が背景ではないため、継続する悪い金利上昇ではなく、米国経済の想定以上に好調な状態が継続するという見方に基づく金利の水準低だと考えられます。したがって、債券価格下落(金利上昇)継続のリスクは、現状水準からは限定される、と考えられます。実際に、金利上昇は10月5日以降止まっています。つまり、リスクオフの際の避難先通貨が、金利を生まない円ではなく、金利水準が十分高い米ドルに変化したことが、株大幅下落でも円高にならなくなった背景だと思われます。
もう一つ注目すべき点として、ドル円のボラティリティ(価格変動性)の低下が挙げられます。3月には10日間ボラティリティ(過去10日間の価格変動性)は10.0%、30日間ボラティリティは8.2%でしたが、現在は10日間が3.8%、30日間が5.4%となっています。このドル円のボラティリティ低下の背景は、今年春から始まったトルコ・リラに代表される脆弱通貨の大幅下落だと思われます。為替市場では以前の様に円と米ドルというように2国間の比較ではなく、各通貨を「安全通貨」と「脆弱通貨」に分類し、それぞれをバスケット的に売買するようになったのではないでしょうか?米ドルは「安全通貨」の筆頭ですが、円も安全通貨に分類されているため、「安全通貨」同士の組み合わせであるドル円のボラティリティが低下した、と考えられます。
ドルユーロの現在のボラティリティは、10日間が7.0%、30日間が6.6%で、ドル円よりも高いのは、イタリア財政問題などユーロ圏にはやや問題があり、ユーロは脆弱通貨ではないが円より安全度は低いと見なされている、ということだと思います。
この為替市場の構造変化は、相当な期間継続すると思われます。ドル円はボラティリティが低いまま非常に緩やかな上昇トレンドと成る可能性が高いでしょう。ドル円でのドルロング・ポジションは、売買で値幅を取るキャピタル・ゲイン狙いよりも金利収入によるインカム・ゲイン狙いに軸足を移すべきだと考えます。つまり、保有目的の根雪的なポジションをキープした形で、トレーディング・ポジションの部分で売買、という方法です。