FOMC議事録を受けた自己矛盾的な市場解説
「昨日、米国で1月31日FOMCの議事録が発表され、米国経済についての見方が一段と強気に引き上げられたことが判明しました。これを受けて市場は今年の利上げ回数4回の可能性の高まりを織り込む形で、イールド・カーブ(利回り曲線)全体が上昇し、米国10年国債利回りは一時2.95%となりました。米国株市場は、金利上昇を嫌気して前日比プラス圏からマイナス圏に失速しました。」
どのメディアを見ても昨日の米国市場を、上記のように解説しています。しかしこの解説には自己矛盾とも言うべき、整合性の取れない部分があるのです。「FOMCで経済見通しを引き上げ」→「利上げ回数4回の可能性の高まり」→「短期金利の上昇」までは問題ありません。問題は「長期金利の上昇」までも利上げ回数をその理由にしていることです。
政策金利(イールド・カーブの起点)動向に強い影響を受ける短期金利と異なり、長期金利は「期待インフレ率」+「実質金利」です。昨日発表された議事録では、FOMCが依然としてインフレの上ぶれリスクよりも下ぶれリスクを警戒していることも判明し、市場が織り込む期待インフレ率であるBEI率も、強い雇用統計が発表された2月2日をピークに上昇は止まっています。そもそも利上げはインフレ抑制要因であり、FRBも利上げの目的を将来のインフレ加速リスクを未然に防ぐため、と説明してきています。
したがって、昨日を含め2月2日以降の米国10年国債利回りの上昇は、物価連動債利回り(実質金利)の上昇によってもたらされており、この原因はFRBの保有債券削減に加えて、トランプ政策による財政赤字拡大により国債発行額が増加する見込みであることによる、需給悪化懸念だといえるでしょう。懸念されていた今週の米国債の入札ですが、金利水準が上昇したこともあり、問題なく消化されてきています。
今後も入札に問題ない状況がしばらく続けば、米国10年国債利回りが更に上昇するとは考えにくく、インフレ加速を連想させる内容の経済指標の発表や、インフレ加速に繋がるような商品市況上昇がない限り、米国10年国債利回りは2.6-3.0%のレンジに落ち着くと思われます。その際ドルは、昨日のコメントでもご説明したように、これまでの逆、すなわちドル高となることが想定されます。ただ、短期金利上昇によるイールド・カーブのフラット化は、株式市場にとっては必ずしも好感できない現象であり、株式市場のボラティリティが落ち着くにはしばらく時間がかかる、という見通しに変更ありません。
利上げ回数に関する市場の反応ですが、3月21日のFOMCで、正式に「今年4回の可能性がある」と示されれば、現在の言葉のニュアンスから思惑を微妙に感じる、という不透明な状態から抜け出すことができ、落ち着いてくると期待されます。パウエル新議長は、議長として迎える初回のFOMCで、上手く市場と対話することが求められます。