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2018年5月14日のマーケット・コメント

アルゼンチン通貨危機はどこに波及するか

 

先週、アルゼンチンは国際通貨基金(IMF)に、自国通貨ペソの防衛のために300億ドルの緊急融資枠の設定を要請しました。年明け以降の米国長期金利の上昇を受け、ペソは年初の1ドル18ペソ台から、2月には20ドル台へと下落し、その後4月下旬までは小康状態が続きました。しかし、4月後半になり、米国長期金利が再び上昇し米ドルも上昇し、4月26日からペソの急落が始まり、3回にわたる緊急利上げで政策金利は40%に引き上げられました。それでもペソ下落は止まらず、一時1ドル23ペソ台まで下落したことを受け、IMFへの支援要請に至りました。通貨下落が止まったのはその後のたった2日間だけで、先週金曜日には一時1ドル24ペソ台まで下落が進みました。あきらかに「通貨危機状態」です。

 

アルゼンチンの悪影響を最も受けやすいのが、隣国であるブラジルです。ブラジルのレアルは、3月半ばから下落基調が続いており、1ドル3.25レアルから直近では3.60レアルに10%の下落となっています。原油を初めとする資源価格の上昇により、資源事業を重要産業とするブラジルに、まだ経済的悪影響は顕在化していません。しかし、ブラジルは慢性的な経常収支赤字国です。経常収支が赤字ということは、国内への資金流入よりも海外への資金流出が大きいということであり、通貨下落のリスクが意識された場合に資本流出が起こりやすいのです。もし、資源価格がピークアウトから下落に転じると、レアル下落が加速する可能性が高く、その場合、以前のように政策金利を引き上げることにより通貨防衛を図る必要が出てきますが、それは景気の下押し要因となり更なる資本流出・通貨下落を招く、という悪循環に陥ります。

 

レアルはかつてFragile 5(5大脆弱通貨)の一つでしたが、その他の4つはインド・ルピー、インドネシア・ルピア、トルコ・ルピー、南アフリカ・ランドです。これらの国に共通するのは「経常収支赤字国」ということであり、ブラジルで想定される状況と同様の状況に陥るリスクがあります。ただ、これらの国々はブラジルほど特定産業への経済依存度が高くないため、「資源価格が下落したら一貫の終わり」であるブラジルほど、悪循環にはまるリスクは高くないと言えるでしょう。

 

アルゼンチン、ブラジルなど南米各国に最も多く融資を行なっている海外国は、その歴史的繋がりからスペインとポルトガルの銀行です。南米通貨危機は、南欧銀行問題を再燃させ、ユーロ圏の大きな問題として再浮上する、という形での波及が考えられます。世界的に景気減速が起こるとすれば、企業業績の外需依存度が高い日本も悪影響を受けます。特に、悪影響が中国経済まで及んだ場合、中国依存度の高い日本が受ける悪影響は大きなものになります。

 

一方で、悪影響を最も受けにくいのが、米国経済・米国企業業績です。新興各国から逃避する資本が向かうのは当然米ドルで、それは米国債の買い需要となるため、米国長期金利が過度に上昇することに歯止めをかけるでしょう。そのため、長期金利の過度な上昇により、米国経済や米国株を押し下げる、というシナリオは描きづらいです。さらに、米国企業業績は世界景気変動の依存度が最も低いという要因もあります。新興国通貨危機が深刻化すればするほど、米国の相対的優位性が高まっていくことは明白です。トランプ政権の狙い通り、ここで中国経済を弱らせることができたら、米国の地位は磐石なものになります。