米国長期金利の上昇余地
昨日の米国市場で、堅調な米国小売売り上げの発表を受け、米国10年国債利回りは3.07%まで上昇し、米国株式市場は金利上昇を嫌気して下落しました。4月25日の3.03%を更新し、フシ目の3%を明確に上回ってきました。一昨日の3.00%の内訳は、BEI率2.17%、物価連動債利回り0.83%で、昨日の3.07%の内訳はBEI率2.19%、物価連動債利回り0.88%でしたので、BEI率上昇が0.02%、物価連動債利回り上昇が0.05%の寄与となっています。つまり、昨日の利回り上昇は大部分がFRBの利上げ姿勢を反映する物価連動債利回りの上昇によるものでした。
期待インフレ率を表すBEI率は、直近実績コアCPI(消費者物価指数)が2.1%、コアPCE(個人消費支出)が1.9%、FRBが目標としているインフレ率が2%であることを考えると、現状の2.19%からの上昇余地はほとんどないと見ていいでしょう。もしインフレ率が2%を大きく上回りそうであれば、FRBは彼らの責務として当然に利上げを積極化してインフレ抑制に動くからです。
だとすると、米国10年国債利回りの上昇余地を決めるのは、物価連動債利回りの上昇余地ということになります。まず各国の物価連動債利回りに注目します。先進国の中で物価連動債利回りがプラス圏なのは、オーストラリア0.86%、イタリア0.61%、カナダ0.59%のみで、日本-0.58%、イギリス-1.58%、ドイツ-1.03%などと他の主要国の利回りはマイナス圏です。米国の0.88%は主要国の中で最も高い利回りであり、米ドルが基軸通貨であることを考えると、米国以外の投資家にとって投資魅力度は高いはずです。
次に、米国物価連動債のこれまでの利回り推移を振り返ります。21世紀に入りリーマンショックまでは2%前後での推移となっていましたが、リーマンショック後2012年まで急低下が続き、2013年以降は0.0%-0.8%のレンジでの推移となっていました。直近の上昇で過去5年間のレンジを明確に上抜けた形になっています。4月半ば以降の利回り上昇の背景は、「年内の利上げ回数3回(2018年合計で4回)」の織り込みで、昨日時点でFFレート先物から逆算される市場が織り込む年内利上げ3回の確率は60%に上昇しています。6月13日FOMCで示されるドッドチャートの予想年内利上げ回数中央値が、従来の2回から3回に変更される可能性が高いことを既に織り込んでいると言え、更なる上昇余地は最大でも1.0%程度まで(上昇余地0.1%程度)と思われます。
最後に需給状況です。CFTC(全米先物協会)が発表している非商業ベース米国債ポジションは、過去20年間で最高水準のショート(金利上昇にベット)となっています。短期筋が順張りで価格を押し下げる余地は限定的で、むしろ金利低下材料が出た場合にショートカバーにより価格上昇(金利低下)しやすい状況です。
以上を総合すると、米国10年国債利回り動向は、今後も金利上昇材料が出れば物価連動債利回り上昇により最大3.2%程度までの上昇はありえるが、もし金利低下材料が出た場合には利回りは低下しやすい、と言えます。また、ポジション状況からは、金利上昇のスピードよりも金利低下のスピードの方が速くなる、と言えます。