原油価格大幅下落-新興国リスク増加に繋がるか
前回のコメントで「原油価格の高止まりが、ブラジルなどで通貨下落による経済的悪影響の顕在化を防いでいるが、原油価格のピークアウトから下落トレンド入りが、悪影響顕在化の引き金になる」とご説明しましたところ、先週末にサウジアラビアの原油増産観測から原油価格は大幅下落となりました。現段階では原油価格が下落トレンド入りしたかどうかの判断は難しいですが、原油価格(WTI)は昨年9月に50ドルを上回って以来、75日移動平均線がサポートとなってきました。現在の原油価格は66.2ドル、現在の75日移動平均線は65.5ドルですので、75日移動平均線を明確に下回れば下落トレンド入りした可能性が高まります。
原油価格の大幅下落に加え、スペインやイタリアでの政治リスクの高まりを受けて、欧州周辺国の国債が下落、ドイツと米国の国債は大幅上昇となりました。先週金曜日には、アルゼンチンやブラジルなどの経常収支赤字国の通貨や国債に大きな動きはありませんでしたが、予断を許さない状況だと言えるでしょう。米国10年国債利回りは2.98%から2.93%に大幅低下しましたが、ドル・インデックスは上昇、ドル円はほぼ横ばいでした。このことから、原油価格の下落は米国のインフレ圧力を軽減し金利低下に繋がるが、新興国からの資本逃避は米ドルに向かうため米ドルは金利低下でも下落しにくい状況だと言えます。今後リスクオフの動きが広がった場合、株下落、米国金利低下、ドル高、円高、という反応が想定され、ドル円はドル高と円高の綱引きという構図になると想定されます。
先週末に発表された5月22日時点のシカゴ筋ポジション(非商業ベース)は、円ショートが5月15日時点の61,246枚から76,603枚へ増加、円ロングが64,926枚から73,836枚へ増加し、差し引きのネット・ポジションは3,680枚の円ロングから2,767枚の円ショートとなりました。この間のドル円は、110円台前半から111円台への円安ドル高進行でしたので、円ショート筋は順張りで、円ロング筋は逆張りで、それぞれポジションを増加させたことになります。その後、111円台から一時109円割れまで急速に調整したことから、おそらく両サイドともポジションが減少したと思われます。
需給的には円安ドル高進行しやすく、円高ドル安進行しにくい状況であることに変化なく、リスクオフでのドル高は、新興国通貨から米ドルへの資本逃避という実際の資金フローを伴うのに対して、リスクオフでの円高は、理屈のない条件反射的なものであり、一時的反応に留まるであろうことを考えると、ドル円の押し目買いスタンス継続で問題ないと考えます。日本株には売りも買いも積極的にポジションを取るべき局面ではない、という姿勢に変化ありません。