金融庁の仮想通貨行政の変化-仮想通貨取引の適正レバレッジは?
今年1月に起こったコインチェックの仮想通過大量流出事件を契機に、金融庁は仮想通貨交換業者に対する監督体制を強化しています。そもそも日本は他の先進国に先駆けて、2017年4月に仮想通貨法を制定し、仮想通貨交換業を登録制度としました。これは、日本は公式に仮想通貨を「取引対象となる、実体があるモノ」と認めたことを意味します。しかしその後、他の先進国では日本の仮想通貨法と同様な法律の制定は行なわれておらず、仮想通貨の実体を公に認めることは避けて現在に至ります。
今年7月に金融庁長官が森前長官から遠藤長官に代わりました。8月10日には金融庁から「仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング 中間取りまとめ」が公表されました。モニタリングを行なった16の登録業者と16のみなし業者のうち、7の登録業者と16のみなし業者への検査の結果ということですが、その内容は、仮想通貨を暗号資産と呼び変え(「通貨」と認めることを避けたためと思われます)、多数の業者で管理体制や経営体制に重大な不備が見られた、というものでした。これは明らかに、金融庁の仮想通貨交換業者に対する行政の姿勢変化を表しています。
上記の「中間取りまとめ」に記述はありませんが、金融庁は現在10-25倍程度の仮想通貨取引のレバレッジを引き下げる規制の検討をしていると報道されています。仮想通貨の価格変動リスクの大きさを考えれば、10-25倍のレバレッジは高すぎるため、おそらく事実でしょう。そこで、過去30日のヒストリカル・ボラティリティ(HV。値動きの激しさの実績)を使って、適正レバレッジを考えます。
F/X取引を基準に使います。ご存知のようにF/X取引の最大レバレッジは25倍に規制されています。ドル円の30日HVは現在6%で過去1年間のレンジは4-9%、平均は7%程度でした。これに対してビットコイン(BTC)の30日HVは現在66%で過去1年間のレンジは50-140%、平均は90%程度でした。つまり、ビットコインの価格変動性はドル円の約10倍ということであり、それを勘案すればF/Xでの25倍のレバレッジはビットコインでは2.5倍相当です。
日本株の信用取引の最大レバレッジが3倍ですから、仮想通貨取引の最大レバレッジも2.5倍か、あるいは信用取引にあわせて3倍とすることが妥当だと思われ、金融庁の規制もその水準になるのではないでしょうか。最大レバレッジ10-25倍が2.5-3倍に引き下げられれば、取引量の減少、仮想通貨交換業者の売り上げ減少に繋がるものと思われます。しかしそれがまさに、仮想通貨取引について他の先進国に対して先走ってしまった森体制の金融庁行政を、遠藤体制で大幅にブレーキを掛けて他の先進国と足並みをそろえる現在の金融庁の意向でしょう。