「香港人権法案」は米国による中国攻撃が国策である証拠
10月15日に米下院で、香港の自治を認めた「一国二制度」が守られているか毎年検証し、守られていない場合はその原因となっている当局者(事実上中国本土政府)に制裁を課すという内容の「香港人権法案」が、全会一致で可決されました。今後、上院でも審議・可決される見通しです。上院で3分の2以上の賛成で可決された場合、大統領は拒否権の発動が出来ないため、法案成立となります。
自由民主主義を掲げる米国にとって、同様に自由民主主義を目指す香港を支援し、統制国家である中国に対抗するのは当然ですが、あからさまな内政干渉とも言える法案を下院が全会一致(超党派)で可決したということは、米国による中国攻撃の究極の目的が、対中貿易赤字の削減や知的財産権保護などではなく、中国の共産党一党独裁の政治体制の崩壊にあることの現れです。つまり特定の政党や特定の政権に帰属するのではなく、国家を挙げた国策です。
当然、中国政府はこの法案に対して猛烈に反発しており、「強烈な憤慨と断固反対」を表明し、「断固とした対抗策を講じて自身の主権を擁護する」と報復措置を明言しています。前回のコメントでご説明した「部分合意」は、両者の利害が一致した結果であり、実行されると思いますが、その後は交渉が更に進展するどころか、再び報復合戦になる可能性がはるかに高くなってきました。
市場は「部分合意」を好感する形で、買い戻し主導で株式市場は上昇していますが、買い戻し一巡後の買い材料や買い手は見当たらず、非常に危うい状況だと思われます。直近の株価上昇が買い戻し主導と判断する根拠は、個別銘柄の値動きの特徴の無さのほかに、物色対象の広がりが無いことが挙げられます。日本株市場の各指数の動きを見ると、日経平均は昨日明確に年初来高値を付け本日も高値圏で推移していますが、TOPIXは昨日年初来高値を付けた後、本日は4月高値や9月高値を下回っています。中小型株指数の日経ジャスダックは年初来高値を抜けておらず、マザーズ指数に至っては年初来安値圏での推移です。
もし上昇波動の始まりであれば物色対象が広がり、大型株だけでなく中小型も(多くの場合中小型株のほうがより大きく)上昇しますが、下落トレンドの途中の戻りである場合、今回のように中小型株が上昇についてきません。今後の材料としては、米国ではすでに始まっている(日本では10月23日から本格化)7-9月期業績発表、10月30日FOMC、11月16、17日APEC首脳会議が挙げられます。APEC首脳会談にあわせて米中首脳会談が行なわれ、今回の「部分合意」の調印が行なわれるという期待が一部にあるようですが、「香港人権法案」をめぐり今後想定される成り行きを考えると、米中首脳会談どころか習主席がAPECに出席しない可能性が高いでしょう。「香港人権法案」が米下院で全会一致で可決されたことにより、米中対立は貿易問題と知的財産権問題に人権問題が加わり、新たなステージが始まったと言えます。