米国がウイグルを問題視したことで米中貿易交渉決裂の可能性大
昨日、米国政府は「中国ウイグル自治区でのイスラム教徒の身柄拘束に関わる中国当局者への米国入国ビザの発給を制限する」と発表しました。また人権侵害をめぐる懸念がある中国企業8社を、事実上の禁輸措置となる「エンティティー・リスト」に加えることも発表されました。これに対して中国側は「内政干渉だ」と反発しています。人権問題は、知的財産権問題と同様に、中国側が絶対に譲れない領域です。
今週10、11日にワシントンで閣僚級米中貿易交渉が持たれ、その後の15日には合計2,500億ドルの中国製品への関税率が25%から30%に引き上げられる予定です。中国が米国産の農産物を購入するなどにより、市場では今回の交渉で部分合意がなされ、関税率引き上げはもしかしたら延期されるとの期待がありましたが、このタイミングで米国側が中国の人権問題に踏み込んだことで、今回の交渉は合意どころか決裂に終わり、予定通り関税率引き上げとなる可能性が一気に高まった状況です。
また、昨日パウエルFRB議長の講演がありました。講演では、今月初めにあったような資金不足による短期金融市場の混乱を防ぐために、米国財務省短期証券(Tビル)の購入によりFRBのバランスシート拡大を図ることが表明されました。同時に、この措置が過去3度に渡ったQE(量的金融緩和)とは異なり、あくまでも技術的な調整であることが強調されました。今後の利下げに関しては「状況次第」とされましたが、「地政学リスクは重要」とされたことで、米中交渉が決裂し関税率が25%から30%に引き上げられた場合、10月30日FOMCで今年3回目の利下げもありえることが示唆されました。
これらを受けて米国株は下落、米国債券は小幅上昇(金利低下)、米ドル小幅下落となりました。米国株下落を受けて本日の日本株も下落していますが、安寄り後じりじりと戻り、下げ渋っている印象です。おそらく下期以降の業績回復期待が、この動きの根底にあると思われ、その期待が消えない限り下抜けしそうもありません。言い換えれば、その期待が消えれば下抜けすると思われます。日本企業の7-9月期業績発表は、10月10日の安川電機(6506)を皮切りに23日から本格化します。安川電機はいつも強気な予想を披露する企業なので、業績回復期待を消すきっかけになるとは思いませんが、23日以降に発表が本格化すれば下期以降の業績回復期待はしぼむ可能性が高いでしょう。
なお、市場で言われている下期以降の業績回復の根拠ですが、サイクル論です。中国の設備投資サイクルは、2015年4-6月にピーク、2016年7-9月にボトム、2018年1-3月にピークとボトムとピークの間が約1年半だったということを根拠に、今回は2019年7-9月がボトム、ということなのですが、今回は米中貿易戦争という前回には無かった要素が大きく影響していることは明らかで、前回のサイクルを当てはめることには無理があると私は考えます。中国が抱える様々な問題は、好転どころか悪化が継続しており、下期以降の業績回復は期待できません。
問題は市場がどの時点でこれを織り込み始めるか、です。市場参加者の大多数は「買い手」であり、買い手にとって都合がよい「7-9月実績は悪いが10-12月以降は業績回復→業績回復を先取りして株価上昇」というシナリオを、いつ放棄せざるを得なくなるかがポイントです。