米中「第1段階」貿易合意成立-中国は署名するのか?
先週金曜日に「米中第1段階貿易合意」の内容が正式発表され、中国が米国産農産物を大量購入する見返りに、米国は12月15日に発動予定だった1,600億ドルの中国製品に対する15%の追加制裁発動を見送り、9月から15%の制裁関税の対象である1,400億ドルの中国製品に対する関税率を7.5%に引き下げる、となりました。
11月20日付のコメントでご説明しましたが、米国による対中制裁関税の変遷は以下になります。
1.340億ドルに対する25%の関税(昨年7月6日発動)年間税額85億ドル
2.160億ドルに対する25%の関税(昨年8月23日発動)同40億ドル
3.2,000億ドルに対する10%の関税(昨年9月24日発動)同200億ドル
4.2,000億ドルに対する関税率を10%から25%に引き上げ(5月10日発動)同300億ドル
5.3,000億ドルのうち1,400億ドルに対して15%の関税(9月1日発動)同210億ドル
6.3,000億ドルのうち1,600億ドルに対して15%の関税(12月15日発動予定)同240億ドル
以上の年間税額合計は1,075億ドルです。
中国側の要求は4.5.6.の完全撤回だったと見られ、その合計関税額(年間)は750億ドルと全体の70%でした。一方、米国側の提案は6.の見送りのみだったと見られ、その合計関税額は240億ドルと全体の22%でした。今回の合意内容は6.の見送りと5.の半減なので、その合計関税額は345億ドルで全体の32%となります。トランプ大統領としては政治成果獲得のために、5.の半減を盛り込み、中国側に譲歩した姿勢を見せる判断をしたと考えられます。
市場では、6.のみという予想から、4.も半減という予想まで幅広い分布だったと思われますが、内容の発表を受けて米国株は横ばい、米国債券は上昇(金利低下)、米ドルは上昇とまちまちな反応となりました。
合意内容の詳細を見ると、「知的財産権」「技術移転」「食品と農産物」「金融サービス」「為替とその透明性」「貿易拡大」「双方による査定・評価と紛争処理」の7項目があります。中国側からの発表では、合意の内容について具体的に触れられていませんが、米国側からの発表などから各項目の内容は以下の様に推察されます。
「知的財産権」:米国が要求する知的財産権の保護、知的財産権侵害の防止を、中国が実行することを認める。
「技術移転」:外国企業に対する技術移転の強要を中止することを、中国が認める。
「金融サービス」:中国国内の金融サービス事業を米国企業に開放することを、中国が認める。
「貿易拡大」:中国が米国からの輸入額を今後2年間で2,000億ドル増やすことを、中国が認める。
これらはすべて米国の要求に中国が譲歩した、という内容であり、合意成立後に考えられるのは「米国から中国に対する合意不履行の指摘」であり、中国から米国に対して何か指摘がある要素はありません。また、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は「米中が正式に合意文書に署名する日程は未定」「最終的にこの合意が完全に機能するかどうかは米国ではなく、中国で誰が決定を下すかにかかっている。強硬派が決定を下すのと、われわれが望む改革派による決定では別の結果がもたらされる」と発言しました。
つまり、今後以下の可能性があります。
1.中国側が合意内容を認められず、署名日程をいつまでも決めない。一定の時間が経過すれば、当然に米国は中国に対して抗議する。それでも中国側が動かない場合、今回の合意は決裂する。
2.中国側が合意内容を認め、合意文書に署名した後に、米国から合意不履行を指摘される。中国側の対応次第では、追加制裁関税発動。
いずれにせよ、市場にはネガティブな影響が懸念されます。