米国利上げ停止した2006年と現在の相違点
米国FRBは、明らかに10-12月の米国株大幅下落を受けて、当面の利上げ停止を打ち出しました。証券業界はとかく何かあると、過去同じような状況だったときとその後の推移を参考にして、将来を占おうとする傾向があります。前回FRBが利上げを停止したのが2006年半ばだったので、今回の利上げ停止後の市場・経済の推移を2006年半ば以降と同様になぞらえて予想する意見が散見されます。
2006年の利上げ停止時の状況を振り返ると、2004年6月FOMCでFFレート誘導目標が1.00%から1.25%に引き上げられたのをスタートに、以後3ヵ月ごと(3、6、9、12月)のFOMCで毎回利上げが行なわれました。2006年3月FOMCで4.75%まで引き上げられ、景況感はさほど強くないにもかかわらず利上げが継続されることに対する懸念から、米国株は5月、6月に大幅下落し、それを受けて6月FOMCで5.25%まで利上げした上で利上げ停止しました。米国株はその後回復し、リーマンショックの契機となったサブ・プライム問題からトレンド転換した2017年7月まで約1年上昇が続きました。米国経済がリセッション(2四半期連続の実質GDPマイナス成長)に陥ったのは2008年第4四半期でした。
この2006年の利上げ停止後の推移から「利上げ停止後、約1年間は株価は上昇しその後ピークアウト」「利上げ停止後、約2年半後にリセッション」だったため、今回もそれを当てはめて「1月の利上げ停止宣言後、1年間は株価上昇。つまり2019年いっぱいは株価は上昇基調」「利上げ停止後から2年半後、つまり2021年半ばにリセッション入り」という予想です。
その予想が当たりそうか外れそうかの議論の前に、何人もの専門家が予想の根拠として「前回の利上げ停止が2006年だから、今回もその後の推移と同様になる」としていることに驚きます。何かが起こったときその後どうなるか、を過去の事例を根拠にするためには、サンプル数が有意に多数必要です。新薬開発の際のラット実験をイメージするとわかりやすいでしょう。たった1匹だけに対する実験結果から、効能を決め付けることがいかにおかしいか、ご理解いただけると思います。
さて、米国株の大幅下落を受けて利上げ停止に踏み切らされた、という点は2006年と今回は共通しています。しかし、当時と現在とでは決定的な相違点があります。2006年当時は市場のテーマだった、新興国の高い経済成長が世界経済を牽引するという意味の「グローバル・グロース」という言葉が象徴するように、新興国の経済成長率は高く、先進国はその恩恵を受けていた状況でした。ですから米国景気はサブプライム・ローン(審査基準を低くした住宅ローン)でなんとか支えられているような状況でも、業績成長、株価上昇が継続できたのです。そしてサブプライムローン問題顕在化の後は、米国株、米国経済が最も打撃を受けました。
今回は真逆です。米国経済が最も堅調で、欧州は怪しげで、中国を始めとする新興国は経済に様々な問題を抱えています。前回は世界経済の下支えになっていた新興国が今回は下押し要因で、米国にはなんら大きな問題はありません。今年いっぱい株価上昇が続くということは考えられず、新興国経済成長減速を背景とした業績悪化から、時間の問題で株価は再び下落するでしょう。しかしその時も、国内景気(米国経済)は堅調で、世界景気に最も感応度が低い米国株は相対的に最も堅調でしょう。
結論として私の予想は、
1.世界株式市場は早晩再び下落。その際の各国の市場の下落率は、新興国経済に対する依存度により違いが出る。依存度が最も低い米国株が相対的に最も堅調。
2.今回の世界的景気後退で、米国経済がリセッション入りすることはない。