3月FOMC-究極に限りなく近いハト派シフト
米国時間3月20日(日本時間3月21日早朝)に、FOMC声明が発表されました。その内容は大方の事前予想を上回る、究極といってもよいほどのハト派的なものでした。まず、前回会合(1月30日)で「年内に停止する」とされたバランスシート縮小(保有債権残高の削減)ですが、今回「5月から減速を開始し、9月には完全に停止される」とされました。またドットチャート(FOMC関係者による金利予想表)ですが、前回会合(12月19日)では今年の予想利上げ回数の中央値は2回でしたが、今回の中央値はゼロ回とされました。詳しく見ると、回答者17人のうち、ゼロ回が11人、1回が4人、2回が2人でした。
そのような究極に近いハト派シフトを行なった背景として「海外経済の減速が米国景気の逆風になってきた」「米国の個人消費や設備投資の伸びが緩やかになった」とされました。つまり端的に言うと、米国景気の勢いがなくなってきたため、引き締め的な金融政策は適当ではなくなった、ということです。年内の利上げゼロ回は、既に市場に完全に織り込まれており、FF先物価格が示す「今年の予想利上げ回数」はマイナス3分の1回、すなわち3分の1の確率で利下げをすることを織り込んでいる状況です。
バランスシート縮小停止に関しては、複数のFRB高官が「金融政策を緩和方向に転じる(利下げをする)際に、バランスシート縮小を継続するのは整合性が取れない」と発言していたことを踏まえ、将来利下げで対応しなければならなくなった場合に、バランスシート縮小が既に停止しているように、時期を前倒しにしたと考えられます。つまり、FRBは今年10-12月期に利下げに踏み切らざるを得なくなる可能性を感じているということです。
これを受けた米国市場の反応は、米国株上昇、米国債券上昇(金利低下)、米ドル下落でした。S&P500は、昨年11月と12月につけた戻り高値(2,800近辺)を明確に上抜け、米国10年国債利回りは2.53%と、2018年年初に2.50%を越えて以来の低水準となっています。昨年12月19日FOMCを受けて米国株が大幅下落して以来、3ヶ月にわたりFRBはハト派シフトを続け、米国株市場および米国債券市場を下支えし続け、今回を「ハト派シフトの仕上げ」と捉え、市場が好感したことが伺えます。ただ「これ以上」が無くなり、ハト派シフト効果の賞味期限が懸念されるステージに入った、とも言えるでしょう。
しかし、米国以外の市場は米国市場に右に習え、という反応では済まないでしょう。今回のFOMCのメッセージは、海外景気に対する感応度が高いとはいえない米国経済ですら悪影響を無視できないくらい、海外景気の悪化継続が見込まれ、今年10-12月には米国でも利下げに踏み切らなければならないほど、海外経済の悪化が進む可能性が高い、ということです。企業業績の悪化も進みます。中国関連銘柄を始め、日本の景気敏感業種には逆風が吹き続ける、ということであり、また為替市場でも円安ドル高が一層継続しにくい状況となりました。ただし、2.5%という日米金利差の大きさを考えれば、少なくともFRBが利下げ路線に転換するまでは円高ドル安が継続するとも思えません。
ドル円は狭いレンジ(110-112円を中心に最大108-114円)での推移が続く、日本株は業績悪化が続く景気敏感業種を中心に弱気、という見通しを維持します。