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2019年3月4日のマーケット・コメント

関税撤廃の織り込みは行き過ぎ

 

日本時間の今朝、米国で匿名の「関係者」の話として「米中貿易合意が成立した場合には、現在課されている制裁関税が撤廃される」と報じられました。市場の織り込みは、「今月中にも米中貿易合意がなされ、2,000億ドルの中国製品に対する関税率の10%から25%への引き上げは見送られる」でした。制裁関税撤廃は市場にとっては、織り込み以上のポジティブ・ニュースであり、この報道を受けて本日の日本株は中国関連銘柄主導で上昇、中国株も大幅上昇しています。

 

しかし先週、中国との貿易交渉を担当するライトハイザー米通商代表部(USTR)代表が「合意後も公約の履行を遵守しているか、確認を続ける難しい問題がある」と発言しているように、米国が求める要件を中国が承諾して貿易合意がなされたとしても、実際に履行されるかどうかを見極めなければ、合意は実効性のない「口約束」になってしまう恐れがあります。今朝の報道でも「関係者」は、「依然残る問題の一つは、制裁関税を直ちに撤廃するのか、それとも中国の公約履行を米国が監視できるよう一定の期間を設けて撤廃するかだ」と述べています。

 

中国で全人代(全国人民代表大会)が始まる直前という、このタイミングでの「関税撤廃」報道は、明らかにトランプ大統領が習主席にプレッシャーをかける作戦でしょう。来年2期目の大統領選挙を控えるトランプ大統領にとっては、米国が望む内容での米中貿易合意、すなわち中国に言うことを聞かせた、という政治成果が欲しいのは明らかだからです。そうすればトランプ大統領の支持率も上がり、また共和党内での求心力も高まるからです。

 

しかし、これまで何度もご説明してきたように、中国に対して経済的攻撃を与える(中国経済を弱らせる)という政策は、トランプ政権独自のものでも共和党独自のものでもなく、党を越えた米国全体としての国策です。既存の制裁関税の撤廃報道はトランプ政権独自の、中国に対する陽動作戦に過ぎない可能性が高く、たとえ譲歩があったとしても中国の公約履行を一定期間確認することははずせないでしょう。即時撤廃はありえません。

 

目先予想されるのは、ライトハイザーUSTR代表か、ボルトン大統領補佐官か、あるいはトランプ大統領本人から「制裁関税の即時撤廃の可能性はない」という趣旨の発言です。それにより、中国側に「知的財産権保護を認めなければ合意はない。しかし知的財産権保護に踏み込めば合意がなされ、既存の制裁関税の撤廃もあり得る」ということを明確に出来ます。しかし中国が、米国の思惑通りに動いてくるか、定かではありません。

 

結論として、「既存の制裁関税の即時撤廃」を織り込むのは行き過ぎであり、米中貿易協議に関する次のニュースフローは、市場にとってネガティブなものになると想定されます。過度な楽観は禁物です。2月21日付のコメントでご紹介しましたが、ベアマーケット・ラリーの平均は「値幅は直近安値から15%程度、期間は2ヶ月から2ヵ月半」です。直近安値を12月26日のザラ場安値18,949円とすれば15%上昇は21,791円、引け値ベースだと12月25日引け19,156円から15%上昇は22,029円となります。また、200日移動平均線が22,049円に位置しています。現状水準は、そろそろ「いいところ」の水準です。